ダイナミックレンジなら、デジタルでしょ
HDRIを楽しみましょ | |
概要
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私は、デジタルになってからカメラを楽しむようになりました。アナログ…もとい、フィルムカメラは、私には興味がありませんでした。なぜなら、運用コストが高くて、毎日50〜100枚撮る私には無理です…それに、撮った後、人に現像を頼むなんて…(^^; とはいえ、フィルムの良さもわからない訳ではありません…それでも、私は、やる気がないだけで…。 ただ、気になる話題として、フィルムの良さっていうのが、ずいぶんと誤解されていることがあります。 たとえば、フィルムの方がダイナミックレンジが広いとか・・・うーん、特性がちゃんとしている範囲でいえば、そんなに違わないのですけど、デジタルはサチリ方があからさまなだけです。 実は、ダイナミックレンジの話題でしたら、アナログよりもデジタルの方が、解決策があります…広いダイナミックレンジでのイメージの取り扱いを HDRI / High Dynamic Range Imaging / 高ダイナミックレンジイメージといいます。理由は知りませんけど、日本ではまだあまり知られていない、HDRIをご紹介します…とはいえ、私も最近始めたばかりですので、あまり完成版では書けないので、のんびりと、書き足しながら、ご紹介します。 私の本職はコンピューター屋さんです…で、観点が違うみたいで、HDRIの技術と理論には、部分的には、ちょっと違ってないかな…と思う点も感じているのですが、そのあたりもそのまま書かせていただきます。 | |
2008/10/15,20
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■ ダイナミックレンジとはなにか |
カメラを楽しんでいる人からよく聞く話題に、デジタルはダイナミックレンジがフィルムよりも低い…という話題があります。この話題、実は、あまり当たっていません。
確かに、なんとなく撮れる範囲でも撮れているというならば(フィルムの場合は特性がリニアな範囲が狭いので条件付きの話題です)事実なんですけど、実のところ、フィルムだってダイナミックレンジは、人の視力と比べると、とても狭いんです。ですから、そんな話題は、写真に限れば…という話題を離れて、実際の人の視力を基本に考えれば「ドングリの背比べ」みたいなものです。
人間の視力や聴力というものは、実にすばらしくて、私たちが開発したどのような記録技術でも、まだその能力に追いつけていません。ダイナミックレンジに限った話題ですら追いつけていないんです。
視力におけるダイナミックレンジとは、最も暗い所と、明るいところで識別できる範囲です。
写真をやられている方でしたら、フラッシュのような補助光源を使用しないと、室内と室外を一緒に撮ると、室外に合わせると室内が暗く撮れてしまい、室内に合わせれば、室外が真っ白に撮れてしまうことを、ご存じだと思います。しかし、人の目では、両方ともよく見えるのです。このことで、ダイナミックレンジの取り扱いの違いのイメージが、おわかりだと思います。
以下の写真のように、屋外を無理やり明るめにしても、室内は暗くにしか撮れません…室外普通に見える通りの明るさにすると、室内は真っ暗になってしまいます。
室内と室外は、一緒に撮ると、自然には撮れません
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撮影データ OLYMPUS E-1 + ZUIKO Digital 14-54 F2.8-3.5mm
rawデータ撮影後OLYMPUS STUDIOでホワイトバランス 5500Kで現像 撮影日2005/10/22 |
これが、太陽をそのまま撮ってしまうと、太陽を見た感じに合わせてしまうと、他のものは真っ暗にしか撮れません…(^^;
ですから、真っ赤な太陽を、真っ白な太陽に撮影して、なんとか空を赤くして…(^^;…他のものは黒抜きの絵として撮ります…これって、見ているものと全く違うんですよね。
太陽を真っ白にするという妥協で、やっとこんな絵です
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撮影データ OLYMPUS E-3 + ZUIKO Digital ED 14-35mm F2.0 SWD
rawデータ撮影後CAPTURE ONE 4.2でホワイトバランス適時選択して現像 撮影日2008/07/12 |
このような、見ている通りには、とても撮影出来ないという事情は、フィルム時代からデジタル時代になった今まで、カメラ単体の写真の話題としては、変わりません。
この問題の根本的な原因は、視力のダイナミックレンジに、私たちの撮影機器、表示機器、印刷/プリントが追い付けないからです。対応できていれば、そのまま撮影して、同じように見ることができるわけです。
私たちの視力は、周囲の明るさに対応して光彩の広さを変えて見ることがてきます。そこまで話題に入れてしまうと、とても広大なダイナミックレンジになりますが、瞬間的に一度に見ることができる範囲は、1:10000 / 14EV程度と言われています。光彩の機能を含めてトータルに考えると、1:1000000000/30EV程度ではないかとも言われています。
ダイナミックレンジの違いは、シチュエーション/状況に応じて、以下のようなものです。
シチュエーション/状況
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ダイナミックレンジ
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自然
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快晴時のアウトドア
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1:100000
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17EV
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人
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短時間
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1:10000
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14EV
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比較的長時間
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1:1000000
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20EV
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撮像媒体
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ネガティブ・フィルム(ネガ)
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1:256〜8000
(1:256を超えると怪しい) |
8〜13EV
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スライドフィルム(ポジ)
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1:64
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6EV
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CCD/CMOS(フォトダイオード)
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1:256〜2000
(1:256を超えると怪しい) |
8〜11EV
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表示媒体
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印刷
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1:64
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6EV
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高品位プリント
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1:200
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7.6EV
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液晶パネル
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1:1000
(装置としては1:256/8EVが多い) |
10EV
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このようにしてみると、人の目は自然な状態の光景にそのまま対応できますが、写真撮影も表示も、とてもではありませんが、自然な有様のままには、ダイナミックレンジが対応できないことがお分かり頂けると思います。
この地球で、生物に「眼」が誕生してから、より5億年、私たちの眼は、日中から夜間の情報をそのまま取り扱えるように進化している訳ですね。
ここで誤解ないように説明を加えますが、この話題は光のダイナミックレンジの話題であり、カメラのビット解像度とかの話題ではありません。混同されないように、ご注意ください。
たとえば、デジタルカメラは、データフォーマットの観点では、Jpegで撮影していると8ビット…8EVに相当する解像度です。ここでの話題は、そうした解像度のことではなく、フォトダイオード…つまりCCDやCMOSが光子/電子の変換を行う素子の能力の話題であり、そのダイナミックレンジが示した程度の幅しかない…ということです。ですから、8ビットがrawで22ビット(噴飯ものの宣伝仕様ですけど)でも、同じです。
フォトダイオードのダイナミックレンジは、フォトダイオードのサイズにより決まります。ここでも説明が必要ですが、フォトダイオードのサイズとは、ピクセルサイズとは違います。ピクセルサイズは、面積における1素子あたりのものですが、1ピクセルにはいろいろな回路なども焼き付けられているので、CMOSなどはかなり小さくなり、ピクセルあたりの30%程度のサイズしかフォトダイオードに割り当てられません。その面積だけではなく、深さを含めた「体積」が「フォトダイオードのサイズ」にほぼ等価です。蓄積できる電子量が決まるからです。
一般的にCCDの方がCMOSよりもフォトダイオードを(面積を)広く作ることができますが(電子回路がほとんどないからです)、物理的なフォトダイオードのサイズがそのダイナミックレンジを決めており、現代の技術では、だいたいノイズレベルから考えると60〜67dbくらい、つまり1:1000〜2000くらいが限度です。ですからrawデータが16ビットとか、DA変換が噴飯ものの22ビットの解像度(発生できる電子数から考えて、意味が無さ過ぎ)…言っても、もともとこの程度の信号を、そうした解像度で分解しているだけであり、実のところ、あまり意味がありません…技術的には、マーケティングトーク、つまり、ごまかしです。
表示パネルも、最近は明暗比測定不能なものも開発されていますが、それは特定の黒の信号/つまり無信時との比較の話題であり、明るさには限度があります。ノイズフロアから測定ではなく、人の感知する最低レベルからの測定としてみれば、実際の階調度としてその性能は10bit程度であり、それほど広範囲ではありません。つまり、せいぜい10EV程度のダイナミックレンジに過ぎません。
また、実際のところ、デジタルインタフェースのデータ形式の関係で、8bitの階調度しかないので、表現できるのは1:256…つまり、8EVとなります。ただし、専用のインタフェースを使用したディスプレイであれば、1:1024/10EVのダイナミックレンジの製品があります。医療なんかでよく使用されています。
見ていて面白いのは、評判がいいけど撮影が難しいと言われているポジフィルムのダイナミックレンジが、デジカメよりも狭いことでしょうか…(^^;
このように、ダイナミックレンジは、人の視力や自然そのものよりも、カメラや表示装置/媒体の方が狭いので、写真撮影にはそれを乗り越えるための撮影技術やノウハウが必要でした。
典型的なのが、フィルムカメラの時代に発達した、照明の技術です。
照明の技術とは、現代式にその意義を説明すれば、暗い部分に明かりを当てることにより、ダイナミックレンジを狭めて、撮影した結果の情報量が多くするための技術です…照明を行わないと、以下のような写真になります。これはこれで、面白いと思うんですけど、これは写真独特の表現に過ぎません。
照明を使用しないと、明暗差を埋められないのが、カメラの宿命です
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照明は、昔の撮影方法では、フィルムのような媒体を使用する限り、暗い場所では、照明とは避けがたい技術です…。実は、デジタルの場合は、フィルムよりも感度が10倍以上高いので、上のような写真は、フラッシュなしで撮影出来ます。とはいえ、それは光が少ない場合の話題で、光が多い場合は、ダイナミックレンジがデジタルカメラで取り扱かえね範囲を超えてしまうため、やはり照明は必要です・・・暗いから照明が必要なのではなく、明るいから必要なのです。
とはいえ、屋外撮影の時に、反射板とかを持って歩くのは…ちょっとね…
実際には、昼間であっても、プロの現場では、ライトとかフラッシュなんか、よく使用します…(^^;
しかし、率直なところ、照明を使用しなければ撮れない絵とは、自然にはない姿…つまり、不自然な作り物の絵です…見方を変えれば、プロらしい作られた絵なのかも知れませんが・・・。
■ 人の眼のダイナミックレンジに合わせた撮影は、今日では、デジタルなら可能 |
写真の表現技術の話題として、どのように撮影するのかとか、どのように照明するのか、といった話題は別として、イメージ処理として、ダイナミックレンジに対応した、すべての情報を取り扱うことができれば、人の視力に近い表現が可能となります。
それが出来れば、太陽や空を背景にして、フラッシュなどの照明なしに、きれいに撮影して、見ることができるようになるはずです。
しかし、現代のCCDなどの撮像媒体の性能では、それを達成することは、できません。
明暗差が大きい自然の撮影では、フィルムであれば、なんとなく記録できる帯域分はあるので、ndフィルタで減光して撮影したりします。ですから、フィルム撮影でしたら、ndフィルタを使用して減光して撮影しよう…ということになります。当然、デジタルカメラでもサチリ方ははっきりしていますが、そうした話題になります。
ただ、デジタルカメラの場合は、撮像媒体がフィルムとは異なる特性を持っています。フィルムの場合は、暗い場所でもそれほどノイズがでないので、減光して暗めにしても撮影できますし、プリントやスライド表示にある程度は増感により調整できます。とはいえ、印画紙などに表現すると、暗い場所はかなり暗くなります…プリントのダイナミックレンジが、狭いですから…。
デジタルでも同様な撮影技術を利用できますが、撮像素子の特性としてノイズが気になる水準があるので、やりにくいです。
しかし、現代のデジタル技術から考えると、ndフィルタを使用する撮影は、旧世代的過ぎるというか、歪曲的に過ぎます。なぜならば、デジタルの場合は、処理方法によっては、そのまま取り扱うことが技術的に可能であるからです。
そうした広いダイナミックレンジでのイメージの取り扱いを、HDRI / High Dynamic Range Imagingといいます。
HDRIとは、旧来の映像よりも、はるかに大きなダイナミックレンジで映像を取り扱うイメージ処理をいいます。旧来の技術では8EV程度しか取り扱うなかったものが、HDRIでは、10〜253EVまでを取り扱うことができます。つまり、人の視力を超える範囲のダイナミックレンジまでをサポートします。
人の視力を超えたダイナミックレンジが必要な理由は簡単で、写真を撮るだではなく、後処理で余裕をもって映像処理するために、人の視力を超えたダイナミックレンジがあるほうが、有利だからです。
この技術は、写真技術から発達したというよりも、CG技術から発達した印象があります。
HDRIの映像情報を得る経路は、3種類考えられます。
それは、CGから得られる映像、HDR映像素子を利用した撮影装置、そして現在のデジタルカメラを利用した露出ブラケット撮影の結果を合成する方法の三種類です。
CGによるHDRIの映像
コンピュータのCGソフトウェアの映像データを、HDRIとして得ることが可能です。
HDR映像素子を利用した撮影素子
HDR映像素子は、実は、まだある意味では、開発中です…ですからご紹介するに値するのかどうか…(^^;
たとえば、対数圧縮により動作するCMOSセンサであるHDRCは、170db/24EVのダイナミックレンジを実現しており、omronから販売されています(ドイツIMS研究所の研究成果に基づくそうです)。まあ、写真撮影には無理ですが・・・。
他にも、いろいろと研究されています…しかし、写真撮影には、まだ時間がかかりそうですね。
露出ブラケット撮影の映像の合成
通常のデジタルカメラで、シャッタースピードを変えて、つまりEV値を変えて露出ブラケット撮影を行い、その結果を合成してHDRデータを生成します。
通常2枚から5枚程度の写真を、2EV程度の感覚で撮影します。
もちろん、1EV程度の感覚でもかまいませんが、十分な枚数がないとダイナミックレンジがあまり広くできません。あまり近接した絵が多いと、HDRに合成するための絵の処理がやや難しくなる傾向があります。
HDRIにおける写真の取り扱いは、以下のようなステップに別れています。
HDR撮影
・旧来のカメラで、EVを変えて複数のLDR/Low Dynamic Range(旧来の技術の水準の情報のこと)…つまり普通のデジタル写真で撮影し、HDRデータ生成ののための原データを作成します
・または、HDRカメラで撮影する…そうしたカメラは、試作レベルで、ほとんどまだできないですけど
HDRデータ生成
CGの出力やHDRカメラを使用している場合は、必要ないステップです。露出ブラケット撮影した写真データから合成してHDRデータを生成します。
・複数のLDRデータを元にLDRデータを生成します
HDRの表示
HDRディスプレイであれば、HDRビューワでそのまま表示が可能です。
また、HDRビューワにより、トーンマッピングして旧来のLDRディスプレイ、つまり普通のディスプレイに表示できます。
・実際には、HDRディスプレイを持っている人はほとんどいないので、ほとんどの場合でHDRデータは表示できないので、トーンマッピングした結果を生成して、それを表示/印刷して利用します。
■ HDR撮影とは |
CCD/CMOSは、LDRとしか取り扱えませんが、明るさを変えて露出ブラケット撮影して合成することで、HDRのデータを生成するためのソースになるデータを生成できます。
つまり、露出ブラケット撮影で、被写体をEVを変えて撮影して、合成すればいいのです。
この時の露出ブラケット撮影をHDR撮影と言います。
複数のショットで1つの画像を作りますので、可能な限り正確に同じ絵を取る必要があります。
ですから、以下のような点について注意して撮影します。
・ 可能なかぎり(しっかりした)三脚を使用する
・ 可能な限り低震動撮影モードを使用する
・ できるだけケーブルリリースを使用する・ F値を露出ブラケット撮影の間、変えない・ ISO値を露出ブラケット撮影の間、変えない・ Jpeg撮影の場合、ホワイトバランスを露出ブラケット撮影の間、変ない
・ Jpeg撮影の場合、映像はもっともフラットな特性カーブにする
一般的によく行われている撮影は、カメラで撮影できる有効なデータを6EVと考えて、2EVづつずらして同じ被写体を撮影する方法です。撮影できるのを6EVとして取り扱う理由は、カメラのノイズがあるからで、ノイズを無視できるように合成するために、ダイナミックレンジを低く見積るからです。
以下の図のような感じです。
この場合のダイナミックレンジは、2EVをノイズ分として無視して考えていますので、ノイズの少ない10EVとなります。ノイズがある実際のカメラと比較すれば12EV程度の感じになります。なんとなく記録できるという意味でしたら、フィルムもこの程度できる場合があるのですが、この帯域全体に対して、かなりリニアリティが/直線性が高いので、フィルムよりもデジタルのほうが高品位な映像を期待できます。また、絵の枚数を5枚で2EV単位で差をとるならば、16EV、ノイズ範囲を含めると18EVになり、フィルムよりも16〜64倍と、はるかに広いダイナミックレンジとなります。つまり、撮影では、同じ被写体に対して、シャッタースピードのみを変更して、基準となる絵を基準に、±2EVづつずらして、つまりシャッタースピード1/4倍と、4倍の絵を、合わせて撮影して行います。必要に応じて±4EV、つまり±1/16倍とか16倍の絵を加えます。
この時にf値やピント、ホワイトバランス、ISO感度などを変えてはいけません。
このような撮影が、HDRのための露出ブラケット撮影です。
この撮影の際に、6EVとして取り扱っている撮影データをLDR/low dynamic Rangeデータといいます。
LDRは旧来の技術で取り扱うことができるので、JPRGや8bit TIFF 、 rawデータで取り扱うこと値ができます。
HDRデータは、より広範囲なデータを取り扱えるよう考えられたデータ形式である、radiAnceRGBe形式やopenexr形式がよく使われています。
radiAnceRGBe形式は、32EV/32bit/1:4294967296まで表現できるようになっています。
OpenEXRは浮動小数点を使用することで、より広範囲に表現できます。
図では、よく行われる10EVの撮影でご説明しましたが、HDR撮影は、必要であれば、より広いダイナミックレンジで撮影することが可能です。
すでにご説明したように、ほとんどの表示装置や印刷技術は、HDRデータのままでは、技術的に対応できません。
例外があり、HDRディスプレイを使用して、専用ボードを経由すれば、そのまま見ることが可能です。
しかし、ほとんどの場合は、HDRデータは、表示可能なように変換する必要があります。
この処理を、トーンマッピングと言います。
トーンマッピングは、実のところ大変な処理です。
もともと、ダイナミックレンジが違い表示できないのですから、きれいに見せるためには人間の判断が必要になります。
トーンマッピングには、2つの戦略…きれいに見せるための考え方があります。
ティテイル強調処理
映像の ディテイル/詳細なそれぞれの局面 を強調して見せることを考える方式です。この考え方の場合は、暗い場所では積極的により明るい情報から取得されているものを合成します。ですから、ある程度フラットな映像部分があると、その部分にグラデーションが見られる傾向があります。
人の眼で見た印象に近い点がありますが、不自然に見えやすくなる傾向があります。この方式の場合は、人による処理の調整がとても重要です。
トーン圧縮
HDR映像を、γカーブに基づき圧縮して見せる方法です。
この方法は、理屈ではきれいな印象を与えますが、結果が人の眼で見た印象と差異がある場合が少なくありません。しかし、ディテイル強調処理よりも、写真ぽい感じになります。
やはり、人による調整が重要です。
■ HDRワークフロー |
HDR撮影、HDRデータ生成、トーンマッピングなどの作業全体を、HDRワークフローと言います。
率直なところ、面倒くさくて時間がかかりますが、その結果は、旧来の撮影技術ではできないものとなりますので、その苦労の「かい」は十分にあります。
以下の例は、先にご紹介した写真のHDRI版です。
夕陽を背景にして、照明なしです…
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撮影データ OLYMPUS E-3 + ZUIKO Digital ED 14-35mm F2.0 SWDHDRI 5マルチショット トーンマッピング済み 使用ソフト Photomatix Pro 3.1
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以下の例は、通常のカメラによる撮影では得られないHDRIの例です。
雲に陰っていますが、夕陽を背景に、照明なしで撮影したものです。
通常の撮影では、シルエットだけか、背景が白くなるようにしか撮影できませんし、逆光ですので、顔をちゃんと見ることも困難です。しかし、HDRIであれば、このように、美しく見ることが可能です。また、ディテイル強調処理を使用してトーンマッピングしているので、独特な雰囲気になっています。
ちなみに、撮影したのは吉沢光正氏(REFRECT)が原型を作成した、一騎当千の呂蒙子明のやまと版のフィギアです。私は、吉沢光正氏(の原型の作品、好きです…(^^)
ベランダから夕方に撮影しました。背景はDOF(被写界深度)の関係で、いい感じにボケています。
ちなみに、被写体の関係で、HDRで問題になりやすいディテイル強調処理につきもののハロが、かえって味になっています…(^^)
撮影しているのは-2EV、0EV、+2EVの三枚の写真で、HDRへの変換と、トーンマッピングには、Photomatix pro 3.1 betaを使用しています。
夕陽を背景にして、照明なしです…
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他のシチュエーションの例をご覧いただきます。
曇りの日ですが、逆光で、照明なしでそのまま撮影しています。
先の写真と同様に、トーンマッピングによりダイナミックレンジの広さを圧縮する、トーン圧縮処理の効果を試すために撮影しました。
使用したカメラはLEICA Digital-Module-R + LEICA R9です。露出ブラケット撮影は手動で、±4EV、±2EV、0EV、の計5枚で、14EVのダイナミックレンジの撮影です。LEICAらしい美しいボケ味を狙ってみました。
HDRへの変換と、トーンマッピングには、Photomatix pro 3.1 betaを使用しています。
夕暮れを待ったのは、薄曇りで白けていたので、空に色味付くのを待った…というだけで、特に理由はありません。青空であれば、そのまま日中に撮影しました。
トーンマッピングは、実際にはトーンの圧縮処理になるので、暗い場所が明るくなります…つまり、照明を使用するのと同じ効果が得られます。
曇りの日の夕暮で、逆光で照明なしで撮影しました
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撮影データ LEICA Digital-Module-R + LEICA R9 + LEICA VARIO-ELMAR-R 28-90mm F2.8-4.5 ASPHHDR写真 トーンマッピング済み 使用ソフト Photomatix Pro 3.0β
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こうしたご覧いただくと、写真がCGチックというか漫画チックになっていることにお気づきだと思います。人が見ている情報を、狭いダイナミックレンジの媒体経由で見るので、旧来の写真とはまったく異なった表現となり、人が手で必要な情報を書き込んだのと等価な絵に近い表現になっています。ですから、絵画っぽい、CGっぽい、アニメっぽいという印象は、そうした意味において、正しいでしょう。
実のところ、HDRIはCG技術に端を発しています。自由にCGで作られた絵を、限界のある媒体でどのように見せるかという点には、トーンマッピングとして端的なCG技術が反映しています。
表現方法として、すべての情報を画面などに表現する(これはダイナミックレンジの話題で、すべてにピントが合うというハイパーフォーカルの話題ではありません、念のため…)…それは旧来の写真にはなかった表現方法ですが、映画にはありました…CGを使用した映画です。そして、同様に、アニメなども、リアルな絵ではありませんが、同様に必要な表現形体で、すべての情報がひとつの画面に表示されています。
HDR写真から受ける第一印象は、私たちがよく知っているものとしては、CGを利用した映画や、絵画に近い表現能力を持っており、旧来の限られた情報を利用して表現する旧来の写真とは、一線を画しています。
曇りの日ですが、逆光で照明なしで撮影しました
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■ HDRIの苦手なところ |
HDRIは、理論的には十分な完成度がありますが、技術的には厄介な点があります。
それは、おもに、デジタルカメラそのものについての問題点があるからです。
気づいたままに、ご説明します。
Jpegで使用するのは大変
デジタルカメラはJpegで使用するので十分という御仁がまだ多くいる今の時代にこう書くのは気がひけますが、デジタルカメラのJpegで使用されているγカーブはとても癖が強く、HDRに使用するLDRデータとしては、問題が多くあります。HDRデータを生成する際に、そうしたγカーブの「揺れ」がデータに複雑に組み込まれてしまうからです。
ちなみに私はJpegでデジカメは十分というご仁とはお近づきになりたくないです
どんな話もできそうもありませんから・・・
HDRデータは、全体でリニア/直線的であるようになっていないと、トーンマッピングが理論通りにできないので、絵がめちゃくちゃになる原因となります。
こうした背景があるため、ほとんどの場合では、Jpegではなくrawデータを使用します。
また、ほとんどのHDR処理ソフトは、rawデータを直接に取り込むことができます。
ただ、困ったことにCanonなど一部メーカーは、CMOS出力そのものが加工済みであり、本当のrawとは言い難い点もあり、HDR撮影における撮影時に、いろいろな知識を利用者に要求する場合があります。
rawでもホワイトバランスの最適化が困難
rawデータ撮影であっても、問題があります。
それはホワイトバランスです。
もちろん、フィルム時代に比べればある程度の処理はできますが、HDRイメージを生成する際のホワイトバランスの処理は、専門のrawデータ処理ソフトよりも、格段に劣っています。専門のrawデータ撮影ソフトであれば、カメラの特性に合わせた専用のICCプロファイル情報を内蔵しており、現像時にかなり正確なホワイトバランスを処理できますが、HDRイメージ処理ソフトは、そうしたきめ細かさがありません。理想的な特性の撮像素子などない現実があるにもかかわらず…です。
また、どのようなホワイトバランス処理も、被写体の光量に応じた<素子の信号レベルに応じたきめ細かいICCプロファイル情報を持っているわけではないので、HDR撮影時の露出ブラケット撮影を行うと、かなりなずれがあり、色がずれてしまいます。
そうした背景があり、専用のrawデータ現像ソフトでTiff出力にして、それをHDR処理ソフトの入力に使っても、やはのずれが結構あります。
つまり、今のところですが、ホワイトバランス処理は、HDRIでは、かなり苦手ということです。
これには、時々困惑させられます…(^^l
露出ブラケット撮影機能が対応していない・・・(^^;
露出ブラケット撮影は、もともと、いい加減に撮影してちょうどいい写真を見つける機能でした。そのため、0.3EVとか0.5EV、大きくて1EV刻みです。2EV刻みのオート露出ブラケット撮影ができる機種はとても少ないです。簡単な変更だから、カメラメーカーは対応してちょうだい…(^^)/
余談ですが、通常のデジカメとなると、オート露出ブラケット撮影の機能がないメーカーがほとんどで、1EV刻みでオート露出ブラケット撮影できるのは、Panasonic/LEICAだけです。Richoは0.5EV刻みであるため、HDR撮影では意味はありません。これがSIGMAのDP-1となると、撮影1回で、現像処理を変えて出力が3種類…HDR撮影で必要な露出ブラケット撮影ではないので、意味がありません…アホみたいな機能です。
手持ち撮影は、きつい
撮影していて、けっこうシャッター時間が長くなる絵があるため、手持ち撮影はしてるんですけど…きついですね。
幸いに、HDRIソフトには写真の相互のずれを補正する機能が、なかなかうまく実装されているのですが、合わすのには結構カット&トライが必要です。
DSLRは、自動化が進んだのですが、そのためわけりわからない機能とか、なにをやってるのかわからないシーンモードとか、なんか理解しにくい状態です。
HDR撮影は、実は簡単な撮影なのですが、そうした余計な機能があると、実にわかりにくい結果となります。
実のところ、昔ながらの古いマニュアルカメラのほうが簡単です。私の使用しているカメラでは、いちばん簡単なのはLEICA Rです。LEICA Mゆは新しいファームになってからオートISOとか、余計な機能が付いてしまい、面倒です。また、OLYMPUS E-3は5枚の撮影を1EV刻みでできるのですが、毎回シャッターを押す必要があり、自分で数えていないといけないので、やっぱり面倒です…(^^;
■ コンパクトデジタルで、DSLRを超える絵を実現できる |
HDR撮影は、撮像素子のダイナミックレンジを拡大する手法です。
ですから、もともとの撮像素子のダイナミックレンジがちょっと狭くても…つまりコンパクトデジタルであっても、拡大することができます。DSLRとコンパクトデジタルのダイナミックレンジの差は、せいぜい2〜3EV程度…HDR撮影で、それを超えてしまえばいいわけです。
とはいえ、HDR撮影の際に便利な露出ブラケット撮影は、Panasonic/LEICAぐらいしかできません…それも1EV刻みで3枚しか出来ないのですが・・・。他の機種の場合は、マニュアル撮影で、自分でシャッター時間を変えながら撮影します。
HDR撮影を行えば、DSLR/デジタル一眼レフを超えるダイナミックレンジの写真を撮ることができます。
以下のサンプルをご覧ください。1年違いですが、ほぼ同じようなシチュエーションの写真です。OLYMPUS E-1は大きなフォトダイオードを使用しているCCDを採用していますが、コンパクトデジタルの方がダイナミックレンジが大きくなっていることがわかると思います。だいたい、DSLRの4倍、2EVはダイナミックレンジが拡大しています。
もっとも、コンパクトデジタルカメラは、raw撮影できる機種が少ないので、その点も困ります。
また、いらない機能が多すぎるので、その点も困るところです。
それから、カメラの本来の性能は改善できません…ですから、光学系が優秀等、基本性能が良いコンパクトデジタルカメラほど、HDR撮影で可能性が広がります。
rawデータ撮影後Adobe Camera Raw でホワイトバランスを適時選択して現像 撮影データ OLYMPUS E-1 + LEICA D VARIO-ELMARIT 14-50mm F2.8-F3.5 ASPH rawデータ撮影後RawShooter1.03でホワイトバランスを適時選択して現像 |
撮影データ LEICA D-LUX3
rawデータ撮影 HDRI 5マルチショット |
コンパクトデジタルとして、ここではLEICA D-LUX3を使用していますが、HDRIで得られる絵は、とてもコンパクトとは思えない、味のあるものとなります。特に、二枚目の写真は、夜なのにノイズなく空が青く撮影されています…しかも、街灯に照らされている部分も自然に撮れています。これは、HDRIに特有な撮れ方で、人の目の印象にとても近くなります。
上海観光中のスナップ
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上海ヒルズこと、ShAnghai World FinAncial Center
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撮影データ LEICA D-LUX3
Jpeg撮影 HDRI 3, 6マルチショット |
■ HDRIサンプル |
まだHDRIをはじめたばかりです。
しかも、もともと写真の腕はへぼなので、あまりいいサンプルがありませんが、ご紹介いたします。
関連コンテンツ
以下は、HDRIで撮影した撮影写真が収録されているページへのリンクです。
2009
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2008
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