オーディオの遍歴
第04章 鳴らし込みとオーディオケーブル


第03章 ハイエンド 心から心へ… オーディオの遍歴 INDEX !第05章 オーディオの基本は人の中に

智識を求めて

Wisdom

仏教用語ですが、知識と智識には異なる意味があります。知識とは情報として知ること、智識は体感され根付いた智恵を示しています。

私は機器の設置する台やケーブルで音が変わるということは、話しとしては聞いていました。ただ、KRC-2で体験したような激烈なものであるとは、想像もしませんでした。

このようなステレオ機器の鳴らし方をチューニングすることを「鳴らし込み」といいます。当時は、雑誌でもあまり話題になっておらず、私は困惑してしまいました。

なにしろ、あらゆることが私の知識を超えていたのです。使用しているスピーカー だいたいからして、Apogeeの挙動は、私のもっていた音響の知識では理解できないものでした。そもそも平面に放射される音波の挙動は、ほとんど解析だってされていませんでした(今でも状況はそう変わってはいません)。私はスピーカーから、体験的に鳴らし方を学んでいたわけです。

そして、KRC-2も同じです。話しにも聞いたこともないその強力な鳴らし方の特徴は、理解するための手がかりが必要でしたが、市販されている本にも書かれていませんでしたし、人に聞いても体験したことがないという話しでした。

当時の私にとって、どのように使用したらよいのかを知るための唯一のガイドとは、英文のマニュアルでした。輸入代理店が用意していた日本語のマニュアルは、抄訳で、重要な情報が抜け落ちていました。ですから、なんの役にたちませんでした。まず私が行なったことは、英文マニュアルを完訳することでした。

完訳して驚いたのは、製品の設計思想と、それに関しての設置についてのアドバイスが明確に述べられていたことです。そして、販売店のアドバイスを受けることを勧めていました。KRELLのマニュアルの著者は、ディーラーにそうしたコンサルティング能力があることを確信していました。私は日本とアメリカの販売体制の違いに驚きを覚えました。日本では製品を積んで売っているだけだからです。ついでに言いますと、保障期間はアメリカではなんと5年でした。ハイエンド製品が普通の製品でないことがよくわかりました。

私は、このような鳴らし込みに大切な情報が広く公開されないことは問題だと思い、私が作成した完訳をラックスに提供しました。ラックスでは当時KRELLを担当していたA部長はやはりKRELLの愛用者だったのですが、喜んでくれ、他のマニュアルもと依頼されました。私は、書かれている内容が自分にも役立つのでこれを引き受け、当時のラックスから出荷されたKRELL製品の日本語訳の多くは私が作成しました。

この結果得た知識は結構役立ちました。そして、オーディオラックの問題、設置の問題、電源アースの問題について体験を広げていきました。知識は智識へと変貌を遂げ始めていました。

新しい仲間たちの広がり

友人からは、私の苦労や驚きの発見に対して、より効率的に行なうためにアドバイスが寄せられました。パソコン通信でオーディオのフォーラムがあるから、参加していろいろと意見を求めたらどうか、というものでした。そこでNiftyのFAVというフォーラムに参加するようになりました。

当時は金田式と呼ばれている金田氏の設計した自作のアンプの話題と、CDについての若干技術的な話題が多くあげられていました。私が望んでいた鳴らし込みの知識はあまりありませんでしたが、他にもApogeeを使っている人たちがいらっしゃいましたし、有益なアドバイスや、楽しい会話もありました。もちろんガセな話題もいろいろとあり、ずいぶんと変わった実験もしたりしました。それはそれで楽しいものでした。私のホームページでご紹介しているオーディオルームのオーナーの方々は、この頃知り合った方々です。今でもお付き合いいだいています。

もっともこのようなフォーラムにはいろいろな人たちが来ます。私も、他のネットワークの人たちとNifty系の人たちとの喧嘩に巻き込まれかかったりもしました。その人たちに誘われて、あるオーディオ評論家?の家に呼ばれて、みんなで喧々轟々としている場に行った事もあります。皆が、いろいろな改造した機器を持ち寄ったりして、とても変な音を聞きながらいいの悪いのというのを聞いて、私は唖然としてしまいました。昔の私の姿を思い出したようにも思いました。その場では黙ってしまいました脚注12。ただ、電源極性を誤っている音でもあったので、それだけ直させてもらいました。その方はCSE(オーディオ用電源装置、家庭用電源の影響を絶つという間が売り文句の製品…(^^;)を複数台使用していたので極性が関係ないと考えていらっしゃったようですが、当時のCSEではそのような能力はありませんでした。しかし静かにしていたのが誤解を受けたようで、私が皆の熱意に感嘆したと思われたようです。そのためか、いろいろなお誘いを頂いてしまいましたが、すべてお断りしました。

それから数週間して、私を誘っていただいた方だけを私のあばら家にご招待しました。いろいろと気遣って頂いていたからです。その方は私の当時のシステムの音を聴かれてひどく驚かれたようでした。水準が全く異なる音であったからです。判断に困られているようでした。初めての体験だったのだと思います。ご自身がお持ちになった改造したDAコンバーターの音を聴く事は諦めらめていらっしゃいました。私は礼を尽くして、伝えたかったことを悟ってもらったつもりでした。オーディオとは体験そのものが大切であり、きっと恩返しになったのと勝手に思っています。

なにをやっても音は変わる

オーディオ製品の音は、ケーブルでも、電源をいじっても、設置するラックでも、変わります。

ハイエンド機になればなるほど、それは明確に出てきてしまいます。ですから、気をつけないと、音の変化に流されて、行き着くところがわからなくなってしまうのです。所詮は個人的な趣味ですので、自分が満足することが大切なのですが、音ではなく変化を求めるようになってしまうと、いつまでも機器を変えるようになってしまいます。

この時代のころの写真がありました。
クリアビジョンTVの画面に映っているのは、
アニメ版「ジァイアントロボ」ですね、きっと。
まだトランスペアレント・ケーブルには
知り合っていない時代です。
最上段には当時愛用していたKRELL CD-DSPに

STリンクオプションを付けたものが乗っています。
KRELL STUDIOをDAP ( Digital Analog Processer )
として使用していました。 2003/7/27

ケーブルでの音の変化、電源での音の変化、ラックでの音の変化は、ある水準の機器を、ある水準まで鳴らし込みが出来ていないと、わかりません。とても酷いシステムを聴いている人には、全然理解できない話題です。体験した事のない話題を理解しろというのは、それこそ無理筋ですね。

また、ケーブルや電源の影響を受けにくいタイプのオーディオ機器もあります。プロ用のオーディオ機器です。実のところ、そういい音でもないのですが、酷過ぎるということはありません。機器の目的が、音の確認であり、音楽を楽しむためのものではありませんから、それでいいんですね…(^^)

ただ、家庭でプロ用オーディオ機器を使うのは…つまらないからやめた方がいいと思います。F1のレーサーも、普段はカローラに乗るでしょうが、それで満足はしないでしょうから…(^^;

私はこの時代に、機器の音は簡単にはわからないということをKRC-2から学びました。その機器の特徴を捉えて、鳴らしきってやらないといけないのが、ハイエンド機器でした。

どのようにしても、ある一定水準で鳴る機器が一般の製品の考え方ですから、その点に大きな違いがあります。
機器を鳴らしきるためには、好きな音楽と聴きたい音の明確なイメージをもち、そして音の体験が必要です。誰も、望まないもの、想像できないもの、知らないものを求めることができないからです。

当時の私は、浜田麻里がうまく再生できない、というか、再生音に満足できないという問題に直面していました。その音のイメージは、私の直感だけでしたが、透明な質感と人の声の豊かさ、そして雄大な帯域感が必要だと思っていました。

困ったことに、このタイプの音楽はクラシックと異なり、基準となる音を確認するすべがありません。もうひとつ大切な音の体験に難がありました。しかし、後に気づいたのですが、録音をしていると困惑する点なのですが、楽器の音も聞く場所によって大きく異なるものであり、実はクラシックであっても基準となる音は、ありません。まして、楽器の近くで録音した音である録音されたクラシックの音が、観客席の音で聴こえたら、異常事態なのです。実は、音の体験とはオーディオを通したものである必要がありました。しかし、当時の私はそれを知りませんでした。暗中模索の時代は始まったばかりでした。

高級オーディオケーブルとの出会い

当時の私は、仕事の関係でよくアメリカに出張していました。KRELLを利用するようになってから、アメリカの高級オーディオ店に強く興味を抱くようになりました。どうも日本と違うということがわかったからです。あるとき、バージニア州レストン(ワシントンDCの近くです)に出張した際に、アメリカ人スタッフが仕事の合間に行きたい場所はないかと聞いてくれました。私はこれ幸いに、イエローページで調べたKRELLを取り扱っている高級オーディオショップに連れて行ってもらいました。彼も初めてのお店でしたが、お店に入った途端にひどく驚いて車に戻ってしまいました。製品の価格が全く異なっていたからです。

Willson Watts
Willson WATT/Puppy
Transpearnt Cable / 当時のタイプ

私には初めてのタイプのお店でした。ヨーロッパ製(フランスYBA)の巨大な真空管アンプがWilson Wattを素晴らしい音でドライブしていました。そのお店はKRELLもマークレビンソンも取り扱っており、かなりのレベルのお店でした。私は、いろいろと見ているうちに、見たことがないケーブルを見つけました。トランスペアレントケーブルです。私はその音をお店に尋ねてみました。店主はの答えは立派なものでした。私のシステムの内容を一通り聞いてから以下のような会話となりました。

「KRELLでしたら、私はこのケーブルをお勧めします。価格は高価ですが、その価値はわかっていただけると思います。よかったらお持ちになって聞いてみて下さい。ご自身のシステムで試されることをお勧めいたします。なにを申し上げるよりも」

「仕事で日本から来ているだけなので返すことが出来ません。でも借りてみたいなあ」

彼はちょっと考えてから、

「では、一応お買い上げいただいて、気に入らなかったら送り返してください。クレジットカードでしたら売上を取り消すだけですから、日本に帰られてからでもご返金の手間はありません」

私は驚いてしまいました。あまりにも丁寧で、しかも信頼感があります。ああ、これがKRELLのマニュアルに書いてあった信頼できるディーラーというものなのかと驚きました。お店では20%offの値引きもしてくれ、私は同社では中くらいの価格製品、Tranpearent SUPER InterconNECt BALANCE Modelを買いました。価格は400USDくらいだったと思います。これが人生で1万円を超えるケーブルを購入をした初めての体験でした。

車に戻ってから、私を案内してくれたアメリカ人のからからかわれました。

「この前、日本製のステレオを買ったんだよ。300USDもしたんだけど、お前が買ったケーブルは400USDだって・・・ステレオは日本製が一番いいって言うのに、日本人は凄いものを買うんだなあ」

帰国した私は、その音に感銘を受けてしまいました。ああ、こんな音があるのか、と新たな体験をしたのです。もちろん、返品する気にはなりませんでした。逆に、もう1セット欲しくなりました。で、オーディオショップに行き、価格を見て驚いてしまいました。日本の価格は10万円を超えていたのです。私は、Niftyにその音のイメージをUPしたときにあまりresがつかなかったのを不思議に思っていましたが、その理由がわかりました。使っている人が少なく付けようがなかったのでしょう。しかし、当時アメリカに住まわれていたゲルピンさんなどからは素晴らしいresを戴き、感銘を共有する喜びを楽しみました。

私は、このような機会から、嫌いだった海外出張に楽しみを覚えるようになりました。アメリカに行くと、州に数軒はある高級オーディオショップに寄るようになりました。

システムをKRELLで統一する

KRELL CD-DSP
KRELL DIGITAL CD-DSP
モトローラの汎用DSPプロセッサを使用したCDプレーヤー
メカニズムはフィリップス CD-12のチューンアップ版
KRELL KSA-100S
KRELL KSA-100S, KSA-200S, KSA-300S
すべてAクラスで、それぞれ100W, 200W, 300Wの出力
どの機種も1Ω負荷までOKなので、
KSA-100Sは1Ω負荷時は
800Wの出力が保証されています

このような体験から、KRELLというメーカーに対して、より高い信頼を寄せるようになりました。私は、CDプレーヤをKRELL CD-DSPという一体型に変更しました。これはデジタルフィルターにモトローラ社製汎用DSPを使用している、ソフトウェアを搭載しているタイプの機種でした。このような音響をデジタル処理する技術は、当時は日本にはあまりありませんでした。おそらくNECなどが自衛隊関係でソナーの為に技術を所有していたはずですが、門外不出です。当時の日本の音響メーカーの技術者の手におえるものではありませんでした。KRELLはアメリカ海軍の音響処理技術の技術者の支援を受けて、すべてコンピュータ処理によるデジタルフィルタを開発し、実用化していました。これはWadiaに次ぐ開発であり、当時のオーディオの世界では最先端技術でした。CD-DSPは、その普及機でした。外観は当時のKRELLのCDプレーヤに共通の高級感溢れるもので、後に所有することになるMD-10に似ていました。それまで使用していたSONY CD-PR3は私の勤めていた会社の当時の社長にお譲りしました。まだ愛用してくださっていると思います。

また、パワーアンプもKRELL KSA-100Sに変更しました。それまで使用していたKRELL KST100は友人に引き取れて行きました。まだ愛用してくれています。

そして、ダラスの高級オーディオショップでDAP(汎用DSPを使用したDAコンバーターのことをKRELLではこう呼びます)KRELL Studioの出物を発見、私の海外買い付け機器、第一号となりました。

もっとも、このようなシステムの構築は1年ではとても出来るものではありません(お金が・・・続かないですから)。数年を費やしました。

そしてインターコネクトケーブルは、すべてトランスペアレントとなりました。このケーブルはすべてアメリカで購入しました。なにしろその頃の私はNifty仲間で、ニューヨーク買出しツアー脚注13までやっていましたから。

どうしても突破できない壁

この頃は、かなりの水準でシステムが鳴っているとは思っていましたが、実は音に不満がまだ残っていました。ときどき、私の聴きたくないイヤな音を出す場合があったのです。私には、その理由が今ひとつわかりませんでした。この原因は電源にあるのではないかと思っており、トランスペアレントのフィルター付電源も使用したりもしました。でも、なかなか突破ではないでいたのです。ただ、聴いている音の水準は販売店よりもかなり高いものになっていましたし、あまり比較できるシステムもなく、浜田麻里の音楽はイメージからしか再生できない性格があり、だいぶてこずりました。

この問題の突破は、ある人物と知り合うことにより、実現できたのでした。


脚注12

私を良く知っている人たちは私が直截なものの言い方をすることをよく知っているのですが、だれにでもそうだと誤解されているようです。直裁に発言する相手は、仕事で関係がある人たちと、私が良く知っている人たちに限られます。そうでないときは、ニコニコして黙っている場合も少なくありません。

脚注13>

Nifty FAV リスポジのログには、このニューヨーク買出しツアーのレポートがあります。このときのメンバーは、ゲルピンさんご家族と、Grand Chariotさんご家族、そして私です。この際に、私が奥さんたちにティファニーで「ほっとくと旦那さんたちが高い機械を買っちゃうから、先手必勝で欲しいものを先に買ったほうがいいですよ」なんて囁いたので、今でも裏切り者とからかわれています。私はニューユークの高級オーディオ店で何気なしにトランスペアレントケーブルとフォノイコライザであるKRELLKPEを購入したので驚かれてしまいましたが、ご同行のお一人は10000USDもする製品を買われました。当時は1USDが80円、アメリカの製品は何を買っても大特売でした。今は昔・・・。


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