オーディオの遍歴

第15章
感動させる音などない・・・
でも、意味を明らかにする音はある・・・
■15.04 HDCDとは・・・ 編■



第14章 特別編 いける音は遠くない・・ オーディオの遍歴 INDEX !第16章 音楽よ、届け!

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■ 15.01 インデックスとイントロ
■ 15.02 音がいいとか、悪いとか・・・ 編
■ 15.03 音楽の本質 編
■ 15.04 HDCDとは・・・ 編
■ 15.05 アルバムを創る人々、聴く人々 編






2002/06/16,2003/09/28


HDCDの概要

HDCDとは、High Definition Compatible Digital(高精細互換性デジタル方式とでも訳すといいのでしょうか)の略です。

実は、浜崎あゆみのアルバムを聴くまで、HDCDを気にしてもいませんでした。悪い印象はなかったわけですし、悪さをしていると思うことはなく、こんなに音が影響を受ける可能性があると考えたことも無かったのです。

で、はじめは私のシステムがフルデジタルシステムであるため、私の再生システムのHDCD対応に問題があるのかと思いました。HDCDデコードをできていないのではないかと、考えたのです。ですが私の問合せに対するTacT Audioからの返答では、HDCDデコード処理は完璧そうでした。また、調べてみたら、私のシステムでHDCDデコード処理が機能しない場合は、存在しなかったのです。すべてのデジタル信号入力経路でHDCDのある信号が入力されると、デコードされ処理されます。

もっとも、一般論になりますが、日本で生産されているオーディオ機器は、DVDなどを除くとHDCDデコーダーを内蔵していない製品のほうが圧倒的に多いという現状があります。かならずHDCDデコード処理が介在するようになっているという私のメインシステムの環境のほうが例外的でしょう。

この状況は欧米の製品の場合はちょっと違ってきますが、いずれにしても普及機の場合は似たような状況にあります。なお、DVDはCDの場合と状況が異なり、使用しているLSIにHDCDデコーダーが内蔵されている場合も増えていて、状況があまり掌握できません。
余談ですが、Windows XPのマルチメディアプレーヤーは、HDCDの場合、HDCDと表示します。でも、HDCDデコード処理は行いません。将来のバージョンで対応される・・・予定だそうです。

HDCDは1995年くらいにアメリカで開発された技術で、2つの技術から構成されています。

HDCDを提供している企業、PMI(Pacific Microsonics, Inc)の設立は1996年です。

HDCD Euphonix Model Two HDCD Processor

デシメーション・フィルタ特性を音楽の特性により動的に変更

詳しい説明は後述しますが、デシメーションとは1秒間にデジタル化する情報の量をはじめの量よりも少なくすることです。CDは一秒間に音に対して44,100回(44.1KHz)のデジタル化を行っていますが、これは音楽スタジオなどで音を取り扱うよりも、かなり少ない値です(スタジオでは一秒間に192,000回(192KHz)とか、CDよりも多い回数で音を取り扱います)。この回数をCDの水準に下げることをデシメーションといいます。デシメーションを行うときに、音楽信号でデジタル化する周波数の1/2よりも高い周波数のものを除かないと、音楽信号に戻す際にトラブルが発生するため、それを合わせて行うデジタル回路があり、それがデシメーション・フィルタです。通常は固定した周波数で行うのですが、それよりも聴感上有利であるとして、HDCDでは、どのような周波数に対して行うかを音楽信号の内容に応じて変更し、再生時にその処理内容にしたがって処理します。これはHDCDの重要な技術のひとつです。

音楽信号をデジタル化後に、CDなどのためにデータの圧縮/伸張ができる

これも詳しい説明は後述しますが、音をデジタル化する際に、何段階の数値で音を表現するかについて、CDと音楽スタジオでの取り扱いに、やはり違いがあります。CDは1回のデジタル化を65,536段階(2**16 二の十六乗)で表現しますが、音楽スタジオなどでは1,048,576段階(2**20)とかで取り扱います(カタログでは16,777,216段階(2**24)ということになっているのですけど・・・本当にそうできるのは、少ないみたいです。しかし音楽編集時には、16,777,216段階(2**24)で取り扱うのは間違いなく有利です。いいものだと、4,294,967,296段階(2**32)なんかで取り扱います)。この段階の違いを、なんとかして65,536段階に組み込むための方法として、最大で1048576段階の情報を圧縮して65,536段階に置き換え、再生時に1,048,576段階に近い形に戻すための方法が用意されています。

SONY OXFORD DIGITAL CONSOLE

これらの処理が行われたCD、つまりHDCD化されたCDは、通常のCDプレーヤーで再生された場合でも、通常と遜色なく聴こえ、HDCDデコーダーを使用したCDプレーヤーを使用すれば、さらに素晴らしく聞こえる・・・というのが、うたい文句・・・それがHDCDです。

私は、そのうたい文句を、それほどうそは無いと思っていました。それは、初期のHDCDとして出されたReference Recordings社のアルバムを聴いて、確かにHDCDの方がいい点が多いと思っていたからです。

しかし、avexから発売されたHDCD化されたアルバム群の音は、そうした印象を吹き飛ばしてしまいました。あまりにも、不思議な聴こえ方だったからです。HDCD化されたものとそうでない通常のPCMのものが比較できたので、よりその不思議さが明らかでした。

もしもHDCD化されたアルバムだけだと、そうは思わなかったかもしれませんね

HDCDは、Reference Recordings社から初期のHDCDプロセッサにより処理された、評価用のアルバムが発売されていました。私のライブラリにありましたので、もういちど比較するために試聴しました。

HIGH DEFINITION COMPATIBLE DIGITAL SAMPLER VOLUME2

REFERENCE RECORDING RR-905CD
今も入手できるのかは確認していません

右のアルバムがReference Recordings社から発売されていたHDCD SAMPLER VOLUME2です。このアルバムは、HDCD化されたものと、そうでないものを交互に収録してあり(HDCD化は曲ごとに行うことができます)、容易にHDCDの効果を確認することができます。

このアルバムを聴く限りですが、HDCDはなかなか有効なプロセスであると思っていしまた。HDCDプロセスが行われているトラックのほうが、通常のCD信号の曲よりもダイナミックレンジが広がっており、より素晴らしい音を楽しませてくれたからです。

確認して聞いているときに、このアルバム中で、ちょっと不思議な説明が14、15トラック目にあることに気付きました。曲はいずれも"nelhybel : Trirrico - finale"です。14トラック目は通常のデジタル信号、15トラック目がHDCD化された信号です。解説によると、15トラック目の平均再生レベルは3DB高く記録されており、HDCDのメリットを生かしてあると説明が書かれていました。聴いてみると、その説明どおりだと思いました。

後に詳しく説明しますが、このHDCDエンコード方式をHDCDピークレベルエクステンションモードといいます。ピークレベルを圧縮してCDに記録し、再生時、つまりHDCDデコード時に伸張する方式です。この方法を使用すると、エンコードした結果は最大のレベルの信号時にリミッターがかかったように記録され、HDCDデコードを行うともとにもどります。このモードの場合は、ピークが圧縮できるので、全体的な平均レベルを上げてCDに記録することが可能です・・・平均的な信号レベルが低いならば、とても有効な取り扱い方です・・・(ここにキーワードがあります)。このCDにかかれている解説は、そのメリットを説明しているものでした。

でも、このアルバムはすべてがクラシックとジャズだけです。つまり、アコースティク楽器だけであり、広いダイナミックレンジの曲だけでした。

ここで説明が必要ですが、広いダイナミックレンジの音楽とは、音楽の一番大きな音と小さな音の間で、その差が大きいことをいいます。別に、音が大きいという意味ではありません。逆に、平均的な音楽の再生音は小さいものがほとんどです。逆に、浜崎あゆみのようなJPOPS系の音楽は、平均的な音の再生レベルは高いままで、それほど小さな音の部分はありません。つまり、ダイナミックレンジが狭いわけです。で、気になりました。HDCDは、ひょっとしたらクラシックとかジャズを前提に考えて設計されたのではないかと思い始めたのです。

ここでは詳しく述べませんがHDCDは非可逆的な(つまり原信号に戻すことが不可能な)信号の取り扱い技術なので、それなりのトーンカラーがあります。そうしたトーンカラーは人間の聴覚で確認した上で方式化したものであるわけで、その際に対象とされていた音楽の場合と、そうでない音楽の場合では、まったく異なる印象を与える可能性があります。このときは、HDCDの詳細な動作原理を知らないときでしたので、単に音楽ジャンルの違いが気になりました。

このアルバムのようにHDCDとそうでないものがちゃんぽんに入っていると比較しやすいのですが、なんと avexにもそうしたHDCD/ノーマルちゃんぽんアルバムがあります。

AUBE COLLECTION

avex AVCD-11986
2001/8/8発売

かるばどすほふ浜崎あゆみよ、風になれ!アルバムインデックスには、中国系のへんてこなものも入っているのに、このアルバムは入れていません。

あんまり不可思議なアルバムなので、意図的に除外してしまったのです。別に、企画内容が変なわけではありません。花王ソフィーナaubeのコマーシャルソングを集めたもので、様々なアーティストの音楽を1枚で楽しめる、お買い得なCDです。

でも、本当にマスターから、寄せ集めて、なにも考えないで作っちゃったんでしょうね・・・HDCDと通常の曲が、ちゃんぽんに入っているんです。以下の赤字の曲が、HDCDエンコードされています。

01 Change by me / Favorite Blue
02 Alleluia!! / Groovy Boyfrends
03 Missing Place / Favorite Blue
04 Trust / 浜崎あゆみ
05 X'mas kiss / Tiptory
06 Someday / hitomi
07 Boys&Girls / 浜崎あゆみ
08 And Then / 浜崎あゆみ
09 appears / 浜崎あゆみ
10 SEVEN SEAS / 相川七瀬
11 We are. / Do As Infinity
12 Desire / Do As Infinity

このアルバムを聴くと、avexがHDCDにより処理した曲が、音がうるさい感じに高域がしゃくりあがって感じ、また、声が高いほうに特徴がある、やはりうるさい感じに聴こえることがわかります。浜崎あゆみやDo As Infinityは、両方のパターンが入っているので比較しやすいですね。録音/ミキシング時期や環境が違うとはいえ、そりゃないだろうというほど違って聴こえます。素直な話、こうしたアルバムを出してもHDCDにした際の音の変化を気にしないのかな・・・この会社は・・・と思いました。

ひょっとしたら、これっ位の変化は大した事ないと思っているのかもしれませんけど・・・(^^;


でも、ちょっと待ってください・・・私の再生システムは、完璧にHDCDをデコードしています。それでも気になってしまうのは、システムのクオリティもあるかもしれません。そうであれば、ちょっと言い過ぎというものです。
もっとも、ちゃんとデコードしてもこれだけ違って聴こえるのはなに・・・?・・・とも考えもしましたが・・・。
では、デコードしていないと、どうなるんだろう・・・それも気になりました。
私のシステムでもベッドサイドオーディオのシステムはHDCDをデコードできません。ですから、デコードしていない場合についての疑問は、すぐに調べられました。で、ベッドサイドオーディオで聴いていて、こりゃ、やっぱりまずいんじゃないかい・・・と思い始めた次第です。

本当に痛感したのは、アナログで聴いたときなんですが・・・それは後述しています

設備の差ではじめてわかる程度の音の違いなんてのは、それほど本質的な違いではないのですが、ベッドサイド程度の設備でわかるとなると話は別です・・・。HDCDデコードしていないから、余計に変なんですね。もう、音楽ぶち壊しという印象でした。・・・これでしか聴いていないとしたら・・・そりゃ、聴かされるほうが、かわいそうというものです。

ここで誤解して欲しくないのですが、HDCDがいいとか悪いとかの話題ではありませんので・・・。avexから出ていたHDCD化されたアルバムが、ちょっとまずいのではないかという話題です。つまり運用としてのHDCDの問題を述べているだけで、技術としてのHDCDを述べているわけではありません。

結構昔の話題ですが、浜崎あゆみの音楽について、巷のうわさとして録音時にちょっと高めに声が加工されているという話題が出たことがありますが、その理由はHDCDになったときの音の変化のためかもしれないと思い始めもしました。

というか、私は勝手にそう確信しています・・・(^^;
ライブで聴いたらぜんぜん違って聴こえちゃうでしょうから・・・
そりゃもう、困ったもんです・・・
笑い話ですが、DVDの場合は使用しているLSIにHDCDデコーダが内蔵されている場合が意外と多くて、HDCDをデコードしないで聴くことが少ない傾向になります(DVDがHDCDエンコードされている場合があること、あまり知られていないみたいですね)。また、avexもDVDに使用するマスターをHDCD化しているか、わかりませんし・・・(DVDはサンプリング周波数が48K/secで、CDの44.1K/secと違います)

困ったことに、現代のLSIはHDCDを勝手に処理しちゃうんで、DVDプレーヤーを使っているだけではHDCD化された信号が入っているのかどうか、私たちユーザーにはちっともわかりません。

こうなってくると、HDCD化されたアルバムしか出ていない曲が、本当はどのように聴こえるのか知りたいというのは、人情です。
で、思ったのでした。

アナログで聴いちゃえ・・・

アナログで聴いちゃおうかな・・・

ご覧戴いているオーディオの遍歴という続き物の読み物コンテンツは、2001/1/2にかるばどすほふに登場したコンテンツです。すでに、私のオーディオシステムがフルデジタルになってから作成したコンテンツですから、遍歴といいながらも、かなり昔の話題についてはあっさりとしています。思い出しながら書くのも大変だったので、アナログの時代の話題が少なくなってしまいました。でも、私自身は、そうアナログが嫌いというわけではありません。で、音が心配になると、やっぱりアナログで確認しちゃおうかなーと思い始めます。

アナログ盤 浜田麻里 MISTY LADY
RAYLAのカートリッジ
Linn LINTO

CDを楽しむようになってから、はじめに強くそう思い始めたのは、浜田麻里のアルバム Misty Ladyの7曲目、More Fine Feelingの再生音に問題があるからでした。

この曲の最後に、音がおかしい場所があるのです。

その問題は、位相が異常に狂うように聴こえるものです。それは聞き覚えがありました。私自身も、若い頃にオープンテープを使用しているときに、よく体験した感覚だったのです。マザーテープであるオープンリールテープが、よれているか、折れているか、いずれにしても、そんな感じの状態の音で、とても意図的に行っていることとは、思えませんでした。

で、その問題はCDのマスタリング工程で起きたのかも知れないなとも思いました。ですから、アナログのアルバムで確認したかったのです。アナログは別なマスタリング工程を経ているわけですから、LPにはそうした問題がない可能性があると思ったのです。

で、昔の話題ですが、アナログ復活を考えて、KRELL KPE(イコライザアンプで電源をKRC-2から供給することができる機種です)をニューヨークで買ったりしましたし、新しい技術で開発されているレコードプレーヤーを欲しくなり、Linnというメーカーと知り合ったりもしました。

そのころの話題はこちらをご覧ください

アナログ版(LPレコード)のMisty Ladyも入手して、さっとアナログで聞いてみたら、なんとLPも同じ状態でした。で、そのとき(KRELLシステムの時代)の再生音の質の悪さに呆れもしました。ですから、アナログ復活は成らなかったわけです。折角、新しいカートリッジもそのころ購入したのですが・・・。

こうして、再びお蔵入りになっていたアナログシステムですが、浜崎あゆみのHDCD化されたアルバム群の音を聴いていて、同様に、アナログ盤ならHDCDエンコードしていないんじゃないかな・・・と思い始めました。

もう、私のシステムは昔と異なりすべてのシステムはデジタル化されています。でも、TacT RCS2.0にはアナログ入力があり、24bitADコンバーター・・・(^^;・・・も内蔵されています。ただ、すでにKRELLのシステムは手放しており、KPEのようなイコライザーアンプはもはや手元にありませんでした。アキュフェーズのC220は残してあったのですが、すでに基盤は劣化しており、おそらく激烈なノイズが出ます。とても危なっかしいので、利用するわけには行きませんでした。

で、アナログ復活の気持ちをお店に伝えたところ、LinnLINTOを貸してもらえることになりました。もちろん、気に入れば購入するという話題ですけど・・・。でも、今の再生システムのレベルからすると、LP-12も一緒に評価しないといけないでしょうね・・・。ただ、私としても、あんまりよければアナログを復活させてもいいかなー、とも思い始めまして、喜んで借りることにしたわけです。

え・・・HDCDピークエクステンションモード・・・!?

LINTOが私の家に来たとき、お店の人とさっそく聴き始めました。

レコードプレーヤーのマイクロBL91は、もう購入してから20年くらい経ちます。使用しているアームはSAEC 308SX、当時としては先進の、高剛性思想により作られたダブルナイフエッジのロングアームです。といいながら、実に長い間使用していません。回転数を調整するためのストロボを見るために、蛍光灯を利用したスタンドを使ったり(室内照明がぜんぶダイクロハロゲンランプなのでストロボで回転数がわからなかったんです・・・)、面倒な思いもしました。

セットアップが終わり、お店のKさんと、一緒に聴くことにしました。ま、電源を入れた直後の音ですから、割り引きながらの聴きはじめですけど・・・音が安定するには十分な時間が必要です・・・。

で、はじめはクラシックをかけてみました。なにしろ、アナログの時代はクラシックしか聞かない時代でしたから、基準として必要だっのです。

まず初めに聴いたのが、すでにご紹介した、CANTATE DOMONOでした。

「いやー、このアルバムは定番ですよね。かるばどすさんもお持ちだったんですか〜」
「そりゃ、ありますよ。これは、ドイツグラムフォンの特別プレス版で、ドイツのハイエンド・オーディオショーで買ったんですよね・・・日本にも輸入されているのかな・・・」
「ドイツ盤がいいという方、多いですよね。材質が違うという話が多いですね」
「そうなんですよ、ドイツ盤の材質は、よく研究されていますよね。静電気も起きにくいし」
CANTATE DOMONOは、定番ですね、これしかかけない方いらっしゃるんですよ」
「へー、そうなんですか」

このころの再生システムは、TacT RCS2.0も利用しており、ルームコレクション(室内特性補正)も行われています。そうした環境でアナログを再生する例は、世界的にも珍しいかもしれませんね。

ボリュームを絞り、針を落とします。そして、出てきた音はなかなかのものでした。

「かるばどすさん、本当にこのプレーヤー、そんなに昔のものなんですか?」
「そうなんですよ・・・しかし、なかなかいける音ですね。レコードプレーヤーのグレードから考えると、十分過ぎるなー」
「いやー、いいですよ。しかし、なんですね、これだけハイテクでレコードを演奏するのは、珍しいですよね」
「そうかも知れませんねー」

音の問題点は、ちょっとした音の輪郭の粗さというか、破綻のしかたがある点なのですが、だからといっていやな音ではなく、それが味になっていました。十二分に楽しめる音でした。電源を入れた直後の音として、割り引いての話題ですし・・・。

そして、その音はCDとかけ離れた音ではなく、近い音でもありました。私自身、これほどアナログ媒体とデジタル媒体の音が近いものとして再生できるとは思っていなかったので、新鮮な驚きでした。

続いて、アナログ版のStar of Wonderとか、結構昔のアルバムですがフリッチャイのモーツァルト K427 大ミサ曲 ハ短調のサンクトゥスとか、お気に入りをかけてみました。Star of Wonderは、率直なところアナログのほうが楽しめました。ま、そうした違いがあるからReference Recordingsもアナログマスターとデジタルマスターで、別々なアルバムをCDとLPで出しているのですから、当然といえば当然でしょう。モーツァルトk427は、1960年の録音ですが、新しくデジタル化されたCDであれば、アナログレコードに対抗できますね。

で、浜田麻里のアルバム Misty Ladyの7曲目、More Fine Feelingもかけてみました。いやー、CDのデジタル化がかなり悪いので、これはアナログのほうがずっといいです。ピアノがピアノの音をしていました。この曲、CDで聴くと、かなり悲惨な音をピアノが立てやすいんですよね。おもちゃのピアノの音になりやすいんです。このCDで、そこそこに聞こえるCDの再生環境は、たいしたものです。

これはいいぞと、浜崎あゆみのアルバムもかけてみました。

で、実にいけます。率直なところ、CDとそう印象は違いません。アナログのほうが粗いということだけです。これは、レコードプレーヤーの能力からして、順当なものでしょう。LP-12のような、しっかりしたプレーヤーを使えば、全く遜色ない再生が出来るでしょう。その音から、CDと同じマスターを使用しているなーと思いました。

で、何枚かかけてみました。なにしろavex USAのアルバムと来たら、へんてこなプレスばかりで驚いてしまいます。レーベルの貼り付けてある位置は中心から外れているは、レコードは気分ですが真円には感じられないわ、アメリカらしいというかなんというか・・・。で、国内版をかけてみました。見ると、プレスはビクター、なんか、ちゃんとしてます。

Mをかけてみました。その再生音は、CDを彷彿とさせます。なるほど〜、と思いました。

「かるばどすさん、いけますねー」

「ね、結構いけますねー、これもかけてみましょうか。これも日本盤なの・・・これもビクターのプレスだ。なんですねー、avexはCDのプレスはどこがやっているのかわかんないけど、LPなんかはちゃんとしたところがプレスしてる感じですねー。」

かけたLPのアルバムはEndless sorrowです。

その再生された音に凍りついてしまいました。

「かるばどすさん・・・なんですか、この音は・・・・」
「・・・HDCDピークエクステンションモード・・・・じゃないかな。それを、そのままアルバムにしちゃった音みたい・・・ビクターのスタジオにHDCDデコーダーがなかったんでしょうね・・・しかし、いくらなんでもね・・・」

しかし、何ですね、聴いただけでこれだけ書いていいのかなと思いますけど・・・(^^;
本当はデータ解析して、ピークの圧縮率とかだそうと思ったんですけど、それをするといつこのコンテンツが終わるかわかんないので、そうした手間がかかる奴は、また後日に・・・

HDCDとは何者なのか・・・

さて、ここでHDCDの解説をちょっとしちゃいましょう。

ネットワークを見てみたのですが、あまり日本語で解説が無いみたいですし・・・もっとも、私自身も、公開されているAESの論文を読んだり、サイトの情報を見たりして理解しただけですので、これからの説明がどこまで正しいかよくわかりませんけど・・・本当は時間をかけてHDCD化されたデータの解析をしようと思ったのですが、さすがに手が回ってません。それについては、後日改めて・・・。

HDCDという技術をご説明するには、ちょっと音をデジタル化するための基礎知識も必要になりますので、必要そうな情報を加えて、かいつまんでご説明しましょう。

基礎知識編 どうやって音をデジタル信号にするのか ・・・ CDの原理

音が空気を伝わることは、どなたもご存知だと思います。

音は、空気の中を、圧力の変化として伝わります。これは、右の図のようになります(右の図は濃い場所と薄い場所で圧力の差があることを示しています)。それは、空気の振動として、波のように伝わります。この伝わるのには、方向があり、何かにあたると反射します。

空気の圧力を高さにして図とすると、音は波として、右図のように伝わります。

音が、音波と呼ばれるのは、このように波として伝わるからです。

この波を、横軸に時間軸を取り、縦軸に音の強さを取ると、右図のように音を波として記述することが出来ます。なんか、見たことがある方も多いのではないでしょうか。
一秒間にいつくの山があるかを、周波数といいます。

周波数の単位はHz(ヘルツ)です。100Hzであれば、1秒間に100回の山がある波ということです。耳で聞くと、かなりの低音です。
このように音を理解することが、レコードやCDの原理を理解するための前提となります。

この音の波を記録することを録音、録音されたものから音に戻すことを再生といいます。

こうしたことが可能であることに人が気付いたのは意外と最近で、1世紀ちょっと前です。

そして、機械的にそうした振動を直接に記録したものが、現代にもあるようなLP盤のような、レコード盤です。

表面に刻まれた溝を針で辿り、振動として音を取り出します。

連続した変化ですので、イメージをご理解いただきやすいと思います。でも、このような連続的な変化は、正確に作ることは大変ですし、正しく取り扱うためには、いろいろとやっかいなことが多くあります。ですから、微妙な動作をする精密なレコードプレーヤーが開発されたわけです。

レコードプレーヤーで針をレコードの表面に位置させ振動を取り出すためのもの、棒みたいに見えるやつですが、それを、トーンアームといいますが、よく作られているトーンアームは大変敏感に作られており、科学天秤と同等以上の感度を持ってる、大変敏感な機構です。


このような音を、符号として取り扱えば、符号が正しく取り扱えるだけでいいので、比較的ぞんざいに取り扱うことができます。それがデジタル化(デジタイズ)です。
デジタルとは、digit/指で数えることから来た言葉です。ですからデジタル化とは数値化することです。
この数値化は、CDの場合は以下のように行います。

1秒間に44,100回、均等なタイミングで音を数値化します。この特定のタイミングの音の大きさを取り出すことを標本化(サンプリング)といいます。つまり、1秒間に44,100回の標本化/サンプリングを行うわけですね。44,100回のことを、周波数と同じように、44.1KHzといいます。

そして、それぞれの標本を65,536段階の2進数の値にします。65,536とは、2の16乗、つまり16bit(ビットとは2進数1桁のことで、16bitとは2進数16桁)、1111 1111 1111 11112で表される2進数で、0から数えたすべての段階の値です。この数値化することを量子化といいます。

2進数で取り扱う理由は、コンピュータのようなデジタル回路で取り扱うのに有利だからです。10進数が人に有利だったのは、指の数に理由があると考えられています。デジタル回路では、1つの線で、1か0を取り扱うのが簡単であるため、2進数が有利となりました。

このように数値であらわしたものから、もとの音に戻すことは、数学的に可能であることが証明されてます。この証明された定理を、標本化定理といいます。
標本化定理によると、目的とする周波数の2倍以上の速さで標本化した音の信号は、目的とする周波数まで元に戻すことができます。しかし、それよりも高い周波数が同時に標本化されると、元に戻すことは不可能であり、異なった波形になることも証明されています。

ですから、CDのデジタル信号を作成する際には、22.05KHz以上の音は(というよりも20KHz以上の音は)カットされます。この周波数が適切であったかどうかについてはいまだに議論があるところです。

ところで、量子化する際に一番大きな音を0db(デシベル)として取り扱うようにすると、最も効率よくデジタル化できます。これは、すべての音の大きさを調べて決めるのですが、一番大きな音を0dbの基準として合わすことを、正規化といいます。CDを作成する際に、正規化はほとんどの場合で行われています。

dBとは音の大きさの単位で、基準の音と目的の音の比を基本にしたものです。で、整数で取り扱うと桁数が大きくなって面倒くさいので、桁数を小さくするために、対数を基本にして比を数字にします。ですから、以下のように、実際の比率と数値の間の関係があります。

0dB
1.000倍
-3dB
0.708倍
-9dB
0.355倍
-20dB
0.100倍
-40dB
0.010倍

後ほどに、何dBでなんだとかいう、ごちゃごちゃした話題が出てきます。

基礎知識編 標本化や量子化の値を変更すると・・・

CDの規格が作られた時代、まだ、それほどデジタル技術は進歩していませんでした。当時の技術としては未来志向で、ちょっと無理なものとして頑張って作られたのが今のCDの仕様ですが、現代の技術から見ると簡単なものです。

で、標本化は高速なほどよいですし、量子化も段階が多いほどよいので、スタジオなどでは、先に説明したようにより速い速度で(高い周波数で)標本化し、より多くの段階で量子化します。そうした取り扱うことで、様々に音を数値として取り扱う中で、音が劣化することを防いでいるわけです。

劣化というのはちょっと不思議な言い回しに感じるかもしれませんが、デジタルで処理を行うと、あらゆる値は有限な数値で取り扱われます。そのため、音として取り扱う際に演算を数値として行うのですが、割り算や掛け算が存在したり、小さな値にしてから大きな値に戻したりすると、意味のある数値の範囲(有効桁数)が影響を受けてしまい、もとの音の情報を大きく失ったりします。つまり、音が劣化してしまいます。これを防ぐ根本的な方法が、情報の桁数を大きく取ることなのです。

実は、現代の技術をもってしても、音の信号をデジタルに符号化するのは、20bit(2の20乗)程度の精度が本当のところの限界です。しかし、スタジオなどで24〜32bitで取り扱われているのは、余計な4〜12bit、2の4乗分(つまり16倍)から2の12乗分(つまり4096倍)の取り扱い範囲の広さが、音を取り扱う際にいろいろと役立つからです。また、浮動小数点という、要領の良い方法で取り扱うことも行われています。

そうして作られたスタジオにおける音楽のデータは、CDにする際に、標本化も量子化も、より荒くされるわけです。

標本化を荒くすると、取り扱える最大周波数が低くなります。そのため、スタジオで取り扱っているときには正しく表現されていた、だいたい20KHzくらいよりも高い周波数は、標本化定理により、取り扱えなくなるわけです。ですから、それよりも高い周波数は必ず取り除く必要があります。

このように標本化の速度を遅くすることをデシメーションといいます。そして、それを行うものをデシメーション・フィルタといいます。

デシメーション・フィルタは、理屈の上では22.05KHzで音を切るようになっていればいいのですが、実際のところ、はさみで切るように音は取り扱えないので、どのように切るかにより、音を聞いた印象が異なります。これは、音楽のタイプにより異なる傾向があります。

また、量子化の場合は、正確に戻すことができるわけだはありませんが、圧縮することで、だいたいもとに近いものに戻すことが可能です。

で、やっとHDCDの説明に入れます・・・。

応用編 HDCDはなにをしているのか・・・

動的なデシメーションフィルターの切り替え

標本化する速度を下げるときの、先に説明した理由により再生時の障害となる取り除かないといけない高域をどのような形にしていくか、などが大切です。これにより、音楽の聞こえ方は大きな影響を受けます。HDCDでは、このような働きをもつデシメーション・フィルタを、どのような特性にしたらよいかを、音楽を構成する音の成分から動的に取り決めることができるようになっています。このデシメーションフィルタの特性は、再生時にそれを考慮して戻す処理(インターポーレーション)を行ってから、音に戻すと、雰囲気は元の音に戻すことができます。
つまり、元に戻すときに必要な、使用されたデシメーションフィルタの情報を音楽のデータに組み込みこんで、どのような特性かを再生する側に伝え、再生する側、つまりHDCDデコーダを内蔵しているCDプレーヤーは、その情報に基づいて、元に近い信号に戻します。

データ長の近似的な拡大

また、量子化の解像度も、24bit→16bitのようにそのまま単に計算して落とすのではなく、音楽の音の大きさに応じてうまく取り扱えるように、データの圧縮を行い、再生時に元に近いイメージに引き伸ばす処理を行います。この場合の動作は大きく別けて2種類に分かれており、別個に行うことができます。これらの処理は、もしもHDCDデコーダーを使用しなくても、あまり違和感がないように感じられるよう考えられているものですが、音楽の性格に応じて選択される必要があります。つまり、アルバム制作者にどのような動作をさせるかの判断が、預けられています。

●ピークエクステンションモード

大きな音を圧縮するモードです。具体的には0db〜-3dBの間(1倍から0.708倍の間)に0db〜-9dbの間(1倍から0.355倍の間)のデータを格納します。つまり6db(0.5倍くらい)、1bitぶんの余裕を大きな音に対して作ります。このモードは、クラシック音楽のようにダイナミックレンジが広く、ピークが大きい割りに、平均的な音楽の音響レベルが高くないもののために用意されているものです。もしもHDCDデコーダーを使用しないで聴くと、昔の用語で言う、リミッターがかかったような音に聞こえます。大きな音がつぶれたままですから・・・。ですから、このモードは、音の大きさにピークがある音楽に使用される必要があります。

ただ、過去の磁気記録方式でアナログの場合とは、大きく違った印象を与える結果になります。もともと、ピークエクステンションモードは磁気記録方式の場合に磁気飽和が発生して記録がノンリニアになるイメージに似せて設計されているのですが、デジタル方式であるため周波数帯域に関係なく圧縮させてしまうため、聴感上は大きく異なるようになってしまうのです。その説明の詳しくは後述しております。

すでに説明した、Reference Recordingsサンプル盤の15曲目は、ピークエクステンションモードを使用して、ピークの音を圧縮しています。そうすることで、平均記録レベルを上げることができます。そうすることにより、正規化すれば(つまりピークを圧縮した状態で0dBを決めれば)CDアルバムとして全体的な音響レベルを上げることが出来ます。サンプル盤はそれを利用して3dB上げてCD化することにより、再生時に平均的に使用される情報量を増し、特性を改善させている例であったのでした。そんな用途に使用されるのが、ピークエクステンションモードの特徴です。

●2種類のローエクステンションモード

小さな音を圧縮するモードです。これには2種類の取り扱い方があります。ノーマルモードとスペシャルモードです。

ノーマルモードは、-45dbから比較的緩やかに圧縮し、スペシャルモードは-39dbから比較的急峻に圧縮します。

これらは、再生時にHDCDデコーダーがあれば、元の信号に近いものに伸張されます。

ノーマルモードは、HDCDデコーダーが無い場合に違和感を少なく感じさせるもので、スペシャルモードは違和感よりもHDCDの機能を優先させて考えたものです。

これらのモードを使用すると、小さな音が大きく記録されるようになるので、再生システムの水準が低い場合は、いい印象を与える可能性があります。

というのが、ま、HDCD設計側の主張です。私の感覚では。それは音楽制作側が考えることで、デコード処理設計者が主張するのはどうかな・・・と思いますが・・・

●高域ディザの生成と制御信号の挿入

ディザとは、意図的に入れるノイズのことです。几帳面にデジタル化した場合、先の図のように、かなりカクカクな信号になるのですが、信号に意図的に平均的なノイズを加えておくと、元に戻す際に平均的には元の信号により近く戻しやすくなります。このような意図的なノイズをディザといいます。

SONYのSBM(Super Bit Mapping)とは、このようなディザの技術です。

ディザを加えることにより、映像や音などは、人が自然に感じられるように受け止められるようにできます。音であればひずみ率を下げることができますし、映像であれば自然に見えるようになります。

一般的に、音の場合のディザは、ホワイトノイズ、つまり様々な周波数を含んだ雑音を使用します。HDCDで云うところのディザは、そうした一般的なディザと違い、16KHz以上の周波数に集中的にノイズを挿入します。これは、聴感上決められたことのようです。

論文を読んでいて、よくわかんなかったところが、高域集中ディザを採用した理由でした。通常、ディザはアナログの音をデジタル化する前に混入するのですが、HDCDの場合、そうしたディザ以外に、HDCDプロセス最終段階に挿入される高域集中ディザが混入されます。そうしたい気持ちはわかるのですが、音としての必然性はどうかなー、と思ったわけです。

このために、システムの能力が十分なシステムで聞く場合、ある程度ですが、高い音に独特なキャラクターをもった音として音楽が聞こえるようになります。これは、HDCDのやむを得ない点です。ただ、これらのキャラクターは、ジャズのような音楽の場合はあまり気にならないでしょう。クラシックの場合は、ちょっと気になりはじめます。おそらく、ロックもそうは気になりません。使用する機材がアナログ系の歪を多用した音作りであるため、そうした音の成文がある程度いつも存在しているからです。しかし、打ち込み系の楽器のような場合、音の周波数成分に敏感なので、これはかなりの影響を与え始めます。作られた音の成分外が、まったく音楽につながらない音として存在し始めるからです。つまり、JPOPSなんかの場合、うるさい音として、全体的な音が高いほうに寄ったような印象を与えるようになります。

HDCDの高域ディザには制御信号が含まれています。HDCD制御信号は、ヒドゥンコード(隠された指示)と文学的に呼んでいます(率直なところ、AESの論文は、論文というよりも文学作品みたいな感じがしました。ま、今お読みの内容は、もっと小説的ですから、うっかりそう呼ぶのはいけないですね)。私の感覚では、高域ディザというのは、ちょっと恣意的な用語な気がしています。なんだか、制御コードを隠すために高域ディザを採用したという感覚があるからです。
HDCDデコーダーは、この制御信号を検出するとHDCD表示ランプをつけて、指示どうりのデコード処理を行います。

HDCDデコード処理とは、動的に変更されたデシメーションフィルタに対応した処理と、ピークエクステンション、ローエクステンションの伸張処理です。

ということは

これらの説明をまとめてみると、HDCDには2つの注意すべき特徴があります。

1. 高域にほんのちょっとだけ独特なキャラクターがある アコースティック系の楽器の場合は、それほどは気になりません。かなり耳のいい人でもHDCDはどうも高域に独特のキャラクターがある気がする・・・という感じの感想程度です。これは、デコードしてもしなくても、共通の感想です。ですから、よく聴感上検討されていると思います。ただし、これは検討された音楽の範囲は・・・ということではないかと思います。HDCDが誕生後に急速に進展した打ち込み系の音の場合、音のタイプによってはずいぶんと強いキャラクターを与えているように感じます。私がはじめに気になったのは、まさにその点でした。

2. HDCDデコーダーがないと、へんてこに聞こえる場合がある すでにご説明しように、HDCDとデコーダーを使用しない限り、制作時にピークエクステンションやローエクステンションが行われると、それはそのままに、大きな音や小さな音を圧縮する方式であることがわかります。誤解していただきたくないのですが、そうした圧縮は制作側の判断で行うもので、HDCDではオプションです。ピークエクステンションとローエクステンションが併用されると、-3DBから-45dBまでは、通常のPCM録音、つまりCDと同じ内容、それ以外は圧縮されるということになります。これは大きな問題なのかということですが、HDCDの開発者達の主張では、音楽の全体の5%程度がHDCDにより拡張される領域であり、通常は3%程度に過ぎないということです。そして、これは真実だと思います・・・クラシックとかジャズのようなアコースティック音楽の場合は・・・。 でも、JPOPやテクノのような全体の音のレベルが近いような音楽には、このようなHDCDとして圧縮する部分が全体の5%に過ぎない・・・という話題はとても成立し得ません。
とくに、打ち込み中心で作られている音楽、平均レベルが高いところに張り付いてしまうので、等しい大きさの音が続く傾向が強く、HDCDは動作しっぱなしになってしまう可能性があるのです。これは、ローエクステンションモードについては、きっとあまり気にはならないでしょう。そうした音楽は低い音のレベルが少ないからです。いちばん問題となるのは、ピークエクステンションモードです。HDCDデコーダーを使用しないと、大きな音は、ほとんどの音はふんづまりのように聞こえるようになるということなのです。なにしろ、0〜-9dBの大きさの音を0〜-3DBの大きさにしてしまうのですから・・・・。これはHDCDデコーダーを通せば元に戻るのですけど・・・なければ、リミッターをガンガンにかけた、めちゃくちゃな音(具体的な印象の説明はもうちょっと先にあります)を聞かされるという意味になります

率直なところ、こんなの説明しなくても聞きゃわかる内容なのですが、なんか、あんまりわかってもらえないみたいなので説明してみました。
で、これらの特徴は、実はHDCDの説明資料にも明示されているのでした・・・(^^)

補足
ここの文章を書いてからちょっと時間が経ってから、説明した「リミッターをガンガンにかけた、めちゃくちゃな音」の意味の説明が必要であることに気付きました。なんか、鼻をつまんだ音という印象を与えるからです。これは、磁気テープを使用したアナログ記録装置の場合の印象としては正しいものです。なぜなら高域の磁気飽和が発生して、高域成分が脱落しながら記録されるからです。しかし、デジタル信号の場合、このような音は全く異なった印象を受けます。このように波形が変形された場合、HDCDデコードしないで聴くと、高い音がいろいろと混入した耳障りな歪んだ音となりやすくなります。特に、打ち込み系の楽器で大きな低域の音がありHDCDのピークエクステンションが動作してしまうと、デコードしない場合はそうした音の混入が混入した形になるので、相当耳障りな音に変質してしまいます。ですから、鼻をつまんだような音というよりも、うるさい音になってしまうわけです。その理由は簡単です。そうした波形変形の結果をフーリエ分解を行うと、高調波成分が多分に増加していることが容易にわかるからです。フーリエ分解とは数学的に波を取り扱う際の手法ですが、特定の波を作り出すためにどのような周波数成分が含まれているかを明らかにするものです。ま、率直なところ、そんな分析しなくても聴きゃわかるのですが・・・。実は、お風呂でHDCD化されてしまっている浜崎あゆみのリミックスアルバムを聴いているときに、この説明を加えたほうがいい事に気付き書き加えました。お風呂のシステム(CDを聴きながらお風呂に入れるようにしてありますが、使用しているCDプレーヤーはHDCDデコードが出来ません。)、HDCDデコードができないので、物凄い音でした・・・(^^;・・・お風呂内の防水型スピーカーでわかるのですから、大変なことですね。

2002/6/25

頑張れ、アルバム制作者!

こうした背景から、かるばどすほふでは、浜崎あゆみなどのavex系アルバムのHDCD化について疑問を提示していました。

実は、私の環境ではそれほどシビアな問題ではなく、1番だけが私にとって不快な点でした。もっとも、これだけでも十分に私には不快だったのですが、今回アナログで聞いた音、それにはもう、驚いてしまったのです。

ピークエクステンションモードによるエンコードをしてはならない音楽に対して、行っていまっている(としか思えないのでけど・・・)ために、浜崎あゆみの声を含めて、異様な音になっていました。もしもこれをアルバムのマスタリング担当者達がわからないなら・・・そんな事あんのかな・・・?。だいたい、HDCDの説明資料にもちゃんと明示されています。

そもそも、ピークエクステンション、ローエクステンションが向かない音楽で(とすると採用しないというほうが普通・・・)、デシメーションフィルターの動的制御をどうしてもしたい音楽のタイプなのか・・・はなはだ、理解できません。それって、HDCDの採用に、意味が無いということだからです。それどころか、ピークエクステンションの誤運用により、はちゃめちゃに音楽を壊してしまっている・・・状態になる場合(つまりHDCDデコーダーが無い場合、それって恐らく、勘なのですが日本の95%以上の場合でしょう)が、多くなっているでしょう・・・。

ですから、率直なところ、プロの仕事として評価できない、というのが、私の感想です。

そして、私の聴いたLPに至っては、意味もわからず、デジタルマスターをビクターに持ち込み、なんでもいいからLPにプレスさせたのだと思いたくなってしまいます。さすがに、音にはシビアなはずのビクターのエンジニアがHDCD化されているデジタルマスターであることに気づかないはずはないと思うのですが・・・。

ま、お金を取ればプロだという意味では、プロの仕事でしょうが・・・日本では、プロというのは、最低限のこだわりを通す人であるという意味が、ちょっとはあると思います。こんないい加減な仕事をするなら、なんですかね、このLPは・・・。だれが悪いのかはわからないですけど・・・。アナログにされたHDCDエンコードされた信号は、高域集中ディザに混入された制御コードを抽出できないので、デコードすることは不可能です。

HDCDピークエクステンションモードにより醜く歪まされた音は、音楽を伝える媒体として失格です。そして、これは、HDCDが悪いのではありません。HDCDの運用は、アルバム制作側の責任であるからです。ピーク/ローエクステンションモードは、アルバム制作時のオプションに過ぎません。ですから、ピークエクステンションモードの誤運用は、アルバム制作側の過ちであり、経験のなさと見識のなさを露呈しているものです。

実は、聴きゃわかるであろう、こうした問題を看過するといのは、音がわかんないのか、興味がないのか、そう思いたくなってしまう話題です。

ただ、I am...以降のアルバムは、そんなに悪くないと思いますけど・・・音楽もパルシブな成分の多い、ロックぽい音楽になってきたから、余計いいのでしょう。

どうも、HDCDの開発者達は、ロックなどの場合はピークエクステンションモードの使用を推薦できる場合が多いとしているようです。ロックを聞かれる方であればわかるのですが、通常のロックは打ち込みによる音と違い、音のレベルに多くのピークがあります。そして、もともと使用しているギターアンプがアナログ技術で歪みを多用した音作りですので、ちょっと歪んでもあまり気にならないんですね。

音楽事情には国情により違いがあり、HDCDが開発されたアメリカでは、ロックこそ主流音楽です。HDCDが向くのかなと?に感じる音楽である、打ち込み系の音楽は、ヨーロッパや日本で主流です。よけい気付きにくいのかもしれません。また、HDCD開発者達は、あまり気にしていない・・・というか、そんなわかりきった運用の問題を、間違えるマスター制作者がいるなんて、夢にも思っても、いないでしょう。

一連のavexがHDCD化したアルバムの本質的な問題点は、HDCDの意味も価値も判断していない感じで運用した、その制作態度そのものにあります。

繰り返しになりますが、そんなこと、普通なら、聴きゃわかるのです・・・HDCDの原理がわかっいてなくても・・・。

ピークエクステンションモードを使用せず、ローエクステンションモードにも意味がない、それでも高域集中ディザを挿入してまでして、デシメーションフィルタの動的変更にこだわらければならない、そうした音楽なのかということです。言い換えると、HDCDにする意味は、ないだろう、するほうがはるかに問題が大きい、ということです。

ところで、私のシステムのHDCD対応は・・・

HDCDの説明をしてきましたが、私のシステムはHDCDをどのように取り扱うでしょうか・・・。

当時使用していた、TacT Milleniumには、HDCDデコーダーが内蔵されており、そのまま処理されています。
右の写真が、TacT Milleniumの内部写真です。左側に、HDCDデコーダーLSIが搭載されていることがわかります。

PMD100というデコーダーLSIですが、デジタルフィルタリグは常に動作しているようです。しかし、HDCDデコード処理は16bit入力でないと動作しません。ただ、当時のTacTの説明によると、当時でもデジタル出力が16bitではなく、18〜20bitのものが多くなっており、そうした場合は、デコード処理は使用されないとの事でした。

このLSIが搭載しているHDCDデコード処理を使用していないという話もありましたが、資料を見る限りバイパスできません。ですから、デコード処理は行われていると思います。

余談ですが、まだ今のようにFPGA化されていない時代ですので、大型の複合パッケージが目立ちます。

2003/09/28

やっとここまで説明してきました・・・

さて、このコンテンツの始まりは、I am...について、HDCDとしてはそんなに悪くないと書き、「え、こうしたアルバム作っちゃうの・・・」ということでした。
I am...は全体的にロック的な音作りであり、HDCDピークエクステンションモードが使用されていても、大きな影響はないですし、打ち込み系の音であっても、このアルバムに収録されているものは、うまくデコードされていると思います。

で、そうした説明のためにいろいろと書いてきたのですが、前提の話題を説明するために、ずいぶんと文字を必要としました。

でも、しようがないですよね、聴きゃわかると簡単に説明する理由は、説明が面倒だからで、説明しようとしたらこれまで書いてきた内容でも、ぜんぜん足りないくらいです。自分で読んでも、えらく簡単に説明してるなーと思いますので・・・・。

いずれにしても、再生が難しいアルバムが I am...であるという深い話題の前提のお話は、だいたいは、いいかなと思います。

これから、やっと本題、なんで現代のアルバムの再生が厄介かということに入りたいと思います。


第14章 特別編 いける音は遠くない・・ オーディオの遍歴 INDEX !第16章 音楽よ、届け!




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