オーディオの遍歴
第12章 音の実存を求めて
ハイエンドオーディオメーカーを翻弄した浜崎あゆみの音楽


第11章 フルデジタルシステムへの移行
オーディオの遍歴 INDEX
第13章 友来りて、日は暮れ行く

2001/04/02,13,06/01

このコンテンツは、私がLinn CD-12を購入した時に、リアルタイムに更新をしていたものです。
ですから、お読みいただいた際に、時制が現在進行形で書かれている場所があったりしますので、ご承知おきくださいませ。

この音では足りない・・・ぶつかるような実在感が足りない・・・

浜崎あゆみ</a>
浜崎あゆみ アルバムDutyのころの写真です
Moogシンセサイザー
1968年のSwitched on Bachで使われたMoogシンセサイザー
Imagination
電子楽器登場後は、音の基本はイマジネーション
Art by *xbooshbabyx
浜崎あゆみを聴き始めたころのシステム
TacT Millenium MarkII
TacT Millenium MarkII
TacT RCS2.0
TacT RCS2.0
KRELL MD-10
KRELL MD-10
KIMBER AGDL
KIMBER KABLE AGDL / 純銀のデジタルケーブル
Enya Watermark
Enya Watermark
アイルランドのミュージシャンです。
BBCの特集番組Keltsの音楽を担当しデビュー
このアルバムが世界的に大ヒットしました
アコースティックと電子楽器を駆使したミックスが特徴です
浜田麻里 Inclication
浜田麻里 Inclination (1994)
ロスで録られたCry for the Moonは、すさまじい名録音です
浜崎あゆみ
浜崎あゆみの多くの曲の中で、明るい曲は比較的少ないです
いわゆるアイドルが能天気な曲が多いのと対照的ですね

DVDを見てから、一気にはまってしまった浜崎あゆみのアルバムは、普通の構成ではありませんでした。

マキシシングルには10曲以上収められており、様々なアレンジャーによる、様々なアレンジが収められています。このアレンジは、大胆なものも少なくなく、元になる曲のメロディと全く異なるようようなものも含まれています。そして、それが百花繚乱な才能の開花を楽しめます。
そして、一貫した感性により統べられた心地よさがありました。音楽はここまで豊かになることが出来るのだと、驚きと楽しみを与えてくれました。

なぜこれほどまでに浜崎あゆみを気にしているかについては、風になれ!で説明しています。

マキシシングルは、限定枚数しか製造されておらず入手するチャンスは中古店にしかありませんでした。しかも、大変少ない枚数しか中古市場に存在しておらず、見つけてもプレミアム価格であったりすらしました(この話題は2001年のものです)。浜崎あゆみに対する支持が単なる人気の勢いではないのだなと痛感させられました。人気の勢いでアルバムが売れている場合、中古市場にはあっという間にアルバムが出てきて、価格の低下が起きるからです。

このように入手しにくい浜崎あゆみのアルバムをだんだんと集めながら聴いているときに、音に対していろいろな問題点を感じるようになりました。

浜崎あゆみの声が死んでしまっているアレンジもありました。もっとも、声のスピードを変えているために、ピッチが変わっているものだってあるわけですから、声の質の維持以前のアレンジ方針も多数あります。
明確な意図のもとで行っているのであれば、それはそれで楽しいので、良いのですが、明らかにそうした意図が感じられないのに、声質が低下しているものがありました。

また、予算と期間の関係からだと思いますが、大部分が打ち込みで演奏されていました。実は、これが再生時の最大の問題でした。

オーディオ機器の発達の中で、電子楽器というものは独特な位置をしめています。オーディオ機器の発達の歴史とは、マイクで録音した音を再生する歴史であったのですが、電子楽器はマイクを経ることなく録音されている場合が少なくないからです。人工的に作り出された信号がそのまま記録されているために、私たちが自然に聴くことでは有り得ない音の出方であっても、そのまま記録されてしまいます。そのような音を再生する場合、自然には存在しない音をそのまま再生することがオーディオ機器に求められるのですが、ここに問題があります。

いろいろなところで説明しましたように、現代の技術では聴感を満足させるための技術がどうあるべきかは暗中模索であり、高度な製品であるほどに人の耳により最後の音のバランス調整が行われます。これを音決めといいます。理屈で考えると音決めは、理想的な動作をしているオーディオ機器であれば、不要なはずですが、いまのところそうした高度な完成度を誇る製品はまだだれにも開発できていません。ですから、開発者たちが最後に音決めをすることとは、仏を作り入魂する作業であり、ここに不具合があると製品としてウィークポイントを持つことになります。

この大切な音決めの際に、旧来の音楽だけ、特にアコースティック系楽器だけで音決めをしてしまい、打ち込みだけでしかも自然には存在しない音の音楽を使用しない場合は、やはり一定の音の傾向が生まれざるを得ません。これは特定の音楽向けという意味ではありません。

ジャズやクラシックだけで音を調整しても、現代の人工的に作られた電子音の美しさを再生することは出来ないということなのです。そして、そうした音楽による音決めは、あまり行なわれてはいない傾向があります。

実際のところ、自然には存在しない音の再生も行なえるようになっている音のシステムのほうが、旧来からの音楽についても素晴らしい再生を行なうことが出来ます。音決めの本質とは、音のウィークポイントを正す作業であり、音楽の可能性をより引き出せるようにする作業だからです(もっとも製品のカラーを付ける作業と考えている人のほうが多いみたいですけど・・・)。ハイエンドオーディオ機器の場合、様々な音楽をベースに試聴して製品化していますが、新しい音楽が登場するごとにこの要求は高度になることになります。

浜崎あゆみの音楽は、そうした新しい音楽でした。

私が浜崎あゆみを聴き込み始めたときのシステム構成は以下のようなものです。

これはこれで、結構なシステムです。

TacT Millenium MarkIIは世界で初めて開発されたデジタルパワーアンプを最新にチューンアップしたものです。価格からは想像できない水準の音がします。

スピーカーはESP Consert Grandは当時に日本に3セットしかなかった(今は2セットだけ)スピーカーですが、使用している世界最高水準のスピーカーユニットと、最新の音響理論と室内全体での音像を前提とした画期的な設計、そしてクラフトマンシップにより組み上げられた細心の作りこみにより、聞いた人誰もが感銘を受ける、音の工芸品です。

TacT RCS2.0は、現代の最新テクノロジーを凝縮したデジタルプロセッサーで、3つの超高速DSPにより、デジタル信号のままで2Hz刻み(低域)で周波数特性を制御することを可能としており、室内音響測定機構と添付されている校正済みマイクロホンにより、理想的な室内特性にリスニングポイントにおける特性を補正することが出来ます。これらの特性の制御は外部のコンピュータにより行います。

CDをかけるトランスポートは、KRELLが10年近く前に開発した、Phillips社製トランスポートを大幅にチューンアップしたもので、今でも銘器として世界的に知られているものです。日本に正式輸入はされていませんが、私の使用しているものは友人のおかげで、日本で使用できるようにKRELLのファクトリーにより変更が加えられています。

これらの機器を結ぶケープルはすべてアメリカのKIMBERの製品です。最新の理論と最高の素材により組み上げられているものです。トランスポートとRCS2.0を結ぶケーブルは、KIMBERに特注のRCA-BNCになっているAGDLです。純銀のケーブルです。RCS2.0とMillenium MarkIIの間はAGDLをバランス接続で使用しています。そして、スピーカーケーブルであるBiForcal XLは、バイワイヤリング専用に設計された、純銀と純銅を使用して、同社の理論により組み上げられたこれもまた工芸品のようなスピーカーケーブルです。

これらのシステムは、私のそれまでの音楽、つまり、クラシックやジャズを楽しむ際には、ええっ、と驚くほどの音楽の姿を明らかにしてくれました。もう、音を聴くシステムの存在なんて、本当に忘れていたのです。音に不満がない状態って、音楽を楽しむばかりだからです。
しかし、浜崎あゆみの音楽はいろいろと聴きこむにつれて、音の実在感について不足を感じるようになりました。これは、電子楽器中心の音と、彼女の音楽自身が本質的にもつ性格に原因がありました。

再生されて初めて本当の音になる電子楽器とリミックスの音

電子楽器、特に打ち込みで使用するような機器の場合、その音の組み立てはミュージシャンが行っていますが、ミュージシャンが知る音は単なるモニター的な音である場合が少なくなく、本質的には、聴き手が再生したときにその音が決定する性格を持ちます。これは、旧来の音楽録音には存在しなかった状況です。

しかも人工的に作られた音楽信号は、今までの楽器には存在し得なかった音から構成されている場合も少なくありません。ですから、音を組み立てたミュージシャンですら理解していない内奥を持つ音を音楽に封じ込めている場合もあります。

そうした場合に適切に再生すると、聴き手は送り手よりも深くその音楽を知ることになります。

また、逆に再生設備の貧弱のために、聴き手が封じ込められた音を知らずに音楽を聴いている場合もあります。前者の場合は、聴かないと分からない話題なのですが、そうした再生が行われると、たいていの人は音の豊かさと多さに驚かされるようです。後者の場合でよく引き合いに出されるのが、エンヤのウォーターマークとか、タイタニックのテーマなどです。どちらも電子楽器による自然には存在しない重低音が重畳して録音されています。このような音は今までのアコースティック楽器には考えられない音です。ただ、あまりに低音であるために低域再生能力の低いシステムでは、そうした音の存在すらわからない場合があります。もう、そうなっては音楽を聴いているうちにも入りません。メロディーを確認しているだけですね…(^^;

電子楽器により音楽が構成されるということは、聴き手がその音楽の姿を決定することになることを示しています。そして、電子楽器による音楽は、華麗にして大胆、そして限りなく豊かな音の世界になっていきます。
このような音の特徴は、浜田麻里の音楽再生の際にも大きな問題としてありましたが、電子楽器が多用されていたのは初期のアルバムでした。また、使用されている電子楽器がアコースティック楽器の延長に近いものが多く使用されていました。今回は、電子楽器の能力の向上が激しいため、再び問題となったのでした。

浜崎あゆみの音楽の場合、ほとんどが電子楽器だけで構成されているために、再生設備に応じて、全く違う音楽の側面を示すという、現代のオーディオを前提としているJPOPS特有の側面があります。

彼女の声自身の面白さもあり、この側面は深遠な部分です。ただし、すでに述べたようにアレンジにより大きな違いがあり、深さも何も感じられないものもありました。

余談ですが、いくつか作られている浜崎あゆみのアコースティック系のアレンジも、おそらく電子楽器が多用されていると思います。また、リミックスシステムの貧弱さも露呈しているように感じます。作曲は良いのですが、さすがに本物のアコースティック楽器には遠く及ばず、残念な音になっています。音楽的には素晴らしいんですけど・・・・。

元型的性格をもつ浜崎あゆみの音楽

用語解説、元型とはなにか

元型とはユング心理学用語で、人の心の内奥(無意識/深層意識)から投影された概念が形態をもって認識されるものを言います。ユング心理学では、神話的要素により元型を分類して説明します。その理由は元型が様々な形態をとるために、分類し議論を進めるために一般化が必要であったため、歴史的な選別を受けても伝わるものに、より純粋な元型の形態があると考え、神話にそのモデルを求めたからです。

元型の本質的な意味は、意識の基本をなす形態が変化する(変容といいます)ことを助けることであり、人の意識の変革を行うメカニズムでもあります。

元型とは、人の心の在り様を導くものであり、人の中にある力が表出したものです。この力のについては様々な方法で昔から語られています。仏教に曰く、人は仏になるのではなく、すでに仏である事を知る脚注1、といいます。インテグラル・セオリー理論でも、人の中にすべての解決策が内在されていることを示しています。元型とは、そうした自身の本質を変革するための内奥の力が形をなしたものです脚注2

ご存知ない方にはわかりませんが、浜崎あゆみの音楽に対して、若い人たちが「救われた」と感謝したり、深い感動を受けたりすることが多いです。その本質的な背景には、彼女の音楽そのものが持つ、音楽そのものが元型として変換>脚注3されうるその内容にあると思っています。

そして、彼女自身も元型を投影する対象として受け止められているのではないでしょうか。

ここで重要なのは、元型は個人個人にとり明確に違う目的を持つのですが、変換は一般化、つまり自分が同一にになることを目指します。つまり、浜崎あゆみにあこがれ、それを皆が目指しても、それは本物の浜崎あゆみを目指すものではなく、それぞれが自身の次の姿を目指すということです。

これは健全なことであり、自然なことでもあります。彼女に対してカリスマを皆が真似をしているという捕らえ方は、表層を誤解しているだけだと思います。他の時代には他の時代で、それなりに対象がありました。人があるところ、元型の変換や投影は常にあります。

と、延々とこ難しい元型の話題を書き、浜崎あゆみを私がそう理解していることを説明したわけですが、これは最近に気づきました。ただ、私自身の内奥ではそうした理解の仕方をはじめからしていたのだと思います。聴いているうちに、浜崎あゆみの音楽再生に対して、より強い音の実在感を求めたくなったからです。「音の塊がぶつかって来るような再生」が必要であると強く感じました。自身を赤裸々に表現する音楽であるのに相応しい、実在感のある再生音の必要性を強く感じたのです。

一言で述べると、浜崎あゆみの音楽の再生に対して、実存的な欲求脚注4もあることに気付いたのです。

浜崎あゆみの音楽の特徴については、風になれ!で詳しく説明しています。

ここでの説明は短すぎるので、ぜひご覧ください。

この直観は、電子楽器の音の聴こえ方に対しての自分の中から生まれた疑問でもありました。
どう考えても、こうした鳴り方は違うのではないかと、感じ始めたのです。

よく考えてみれば、原理的にもあり得ないなあと気付きもしました。いつも感性は理性の先を行くものです。

本題に戻りますが、もともと音の可能性の高い音楽であることに加えて、
音のあり方について根源的な欲求が重畳した以上、

普通なら追求しない水準まで行ってしまう背景があるわけで、これは凄いことになると、決まっていました。

もっとも、録音されていない音を取り出すことは出来ないのですが・・・

まず槍玉に上がったのは、トランスポート

KRELL MD-10
KRELL MD10
Linn CD-12
Linn Sodek CD-122004年にPhilipsでレーザーピックアップなどの基幹パーツの
製造が終わったので製造終了
今でもLinnの工場に行くとCD-12の製造の時の資料を見せてくれます
Linnにとっても記念碑的な製品でした
<a href=
Linn 本社 エントランス" /> スコットランド Linn本社 エントランス
2冊目のオーディオ本を書くために取材した時のものです。
もっとも2冊目は仕事が忙しくなって執筆できませんでしたが…(^^;

KRELL MD10は1990年に設計された製品です。この時代の音楽の主流はアコースティック楽器と、エレキギターのようなアコースティック系列の電子楽器でした。完全に機械だけで作り出された音は、シンセサイザー音楽として特殊な位置を占めつつあるときで、今のように主流ではありませんでした。

そうした背景からか、KRELL MD10の再生音はちょっとムーディーな傾向があり、私が求める音を浜崎あゆみの音楽から取り出すことが難しいと感じられました。実は浜崎あゆみの音楽以前から、若干ムーディだよなこの音・・・と思ってもいました。アコースティックを中心に再生する場合は、ムーディな音のほうが安全な傾向があります。

とはいえ、KRELL MD10はかなりな水準の製品であり、より高い水準の製品といっても、そう思いつくものでもありませんでした。せいぜい音の傾向が違うという水準であるとすると、お金を無駄に使うことになってしまいます。折角切り替えるのですから、より高い水準の製品しか、お金を使う意味がありません。そんな中、1機種だけあの製品ならばいけるかもしれないと思う製品を思っていました。Linn CD-12 です。高額な製品ですし、トランスポート専用機ではありませんが、日本で初めて発表されたときから、高い評価をしていました。また、世界的にも、世界最高水準の製品であると定評を各国で得ていました。

そんな中、サウンドクリエイトに行った際に「だいぶ最近のCD-12も水準が上がりましたので聴いてみませんか?脚注5」といわれました。渡りに船なので、喜んで頼みました。このような高額商品の場合、聴いてみるとは自宅で聴くという意味になります。

デモ機の印象ですが「ちょっと壊れた音だけど、充分なソリッド感があるなあ」というものでした。壊れた音という意味ですが、音のバランスが崩れていて、ちょっとひずみ感が感じられる、という意味です。もっとも、ある程度の範囲は鳴らし込みで制御できるので、その範囲の音の問題であると判断しました。そして、KRELL MD10には期待できない音のぶつかるような感覚、ソリッド感がありました。ですから、即断しました。

Linn CD-12 もらいましょう」

CD-12のデジタル出力のばらつき

納品用Linn CD-12 が到着したのは数週間後です。お店では、エージングというのですが2週間にわたって製品の電源を入れ、動作状態にしてくれ音のバランスがとりやすいようにしてくれていました。で、聴いてみたのですが、以前の製品よりも、より音のバランスが崩れており、肝心の私が求めているソリッド感がありませんでした。電源投入直後の音ですので、あくり早急な判断はすべきでないのが常識ですが、この音はいくらなんでも無理だろうと思い、納品を断りました。

ここから、Linn CD-12 の試練が始まりました。やがてLinnのイギリス本社やレーザーピックアップを開発したオランダPhillips本社を巻き込む大騒ぎとなっていきます。浜崎あゆみの音楽の再生を私がLinn CD-12 に託したために、通常要求される水準を遥かに越える内容を求められたからでした。

一番大きな問題点は、私がデジタル出力しか使用しない環境にあったことがあります。Linnでは、同機に搭載されている世界最高水準のDAコンバーターを使用しないユーザーをあまり想定していなかったようです。様々なデジタル出力を持っているLinn CD-12 ですが、肝心の音の聴感によるチェックがデジタル出力には行なわれていなかったのです。

誤解を避けるために説明しますが、ハイエンド製品はある水準を越えると、出荷前にすべて聴感による検査を経てから出荷されています。もちろん、測定もすべて行なわれており、メーカにはその結果がすべて保存されており、アフターサービスや製品の改善の為に使用されます。ハイエンドではない製品は、たいていが作りっぱなしで出荷されていますので、手間のかけ方が全く違います。ハイエンド製品は、現代の工芸品なのです。ただ、デジタル出力についてまでそうした手間がかけられてはいなかったのです。

Linn CD-12 が企画された段階ではTacT Millenium MarkIIのようなデジタルパワーアンプの登場は予想されておらず、卓越したLinn CD-12 のアナログ出力を全く使用しないユーザの登場はLinn本社の予想を超えるものでした。

今回の問題があったので、すでに4月時点でLINN本社ではすべてのデジタル出力について聴感上のテストを実施しているそうです。また、製造工程の見直しを更に行なった結果、聴感上のばらつきを大幅に抑えることが出来ているそうです。(4/13)

4台のCD-12から選別品が送られてきた

私の反応に対して、お店とリンジャパンの対応は迅速でした。国内にあるLinn CD-12 の全在庫である4台のCD-12をデジタル出力で試聴し、選別されたLinn CD-12 を私の手元に届けてくれました。2週間後です。選別には時間がかかります。私自身としては、自分で選別したかったのですが、お店としては私の手を煩わせる方法を取りたくなかったようです。

新しく届けられた選別されたLinn CD-12 は、納品用に届けられたLinn CD-12 よりはまともだったのですが、問題点がありました。私にとっては平均水準の音でしかなかったことです。確かにKRELL MD10よりは高い水準にあるのですが、私の希望するソリッド感が足りず、音のバランスも平凡で味が足りませんでした。

私は、そうした感想をそのまま伝えました。お店は直ちにリンジャパンと相談し、新たに日本に入荷する予定のLinn CD-12 を、私宛にすべて届けて試聴させてもらえるようにできるよう手配をはじめました。

余談ですが、私のシステムの音の水準が高いために、お店のスタッフの人たちは音の良さばかりしか分ってもらえず、私の指摘する問題点はピンと来ないようでした。ある水準を超えている音の場合、悪い点を識別することは耳がその水準の音に慣れていない限りできることではありません。

鳴らし込みを進める

ここまでメーカを巻き込んでいるいる以上、私にもかなりの責任があります。メーカもそれ相応のコストを対応に必要とするからです。最後にゴメンナサイで済むことはありません。

私がまず守らなければならない点は、製品の問題と、それ以外の鳴らし込みの問題を混同していないことを確定させることでした。つまり、最高の水準で鳴らし込みをしていて、それでもなおこの問題が解決しないことを示さなければならないわけです。

実は、フルデジタルシステムに移行してから、かなり満足していたので、あまり鳴らし込みをしていませんでした。

TacT RCS2.0には退場してもらった

TacT RCS2.0
TacT RCS2.0
室内の特性をフルデジタルで補正する機能と
24bitへの変換、AD変換などが統合されています

いろいろと聴きこんでいてまず直面したのが、室内音響特性を補正していたTacT RCS2.0の問題でした。
浜崎あゆみの音楽は、アレンジャーによっては音楽の常識を大胆に無視したアレンジがあります。重低音が-10dbくらい、つまり自然の楽器には存在し得ない音を極めて高いレベルで録音しているものがあります。

反面、室内音響特性は定在波の関係で-20db(つまり1/100です)くらいになる周波数があり、そうした帯域についてはかなり高いレベルになるように補正します。つまり+20db(100倍)に近く補正するわけです。

困ったことにこれも低い周波数帯に発生します。私の部屋の場合、40Hzを中心とした前後2Hzです。これが、帯域によって補正の関係で0dbを超えてしまう、つまり音をデジタル信号により表現できなくなってしまうのです。

こうした問題を解決するためには、全体の再生出力レベルを一定の値で引き下げます。つまり、この場合であれば-10db引き下げればいいわけですが、本当の問題はそこから始まります。TacT RCS2.0もTacT Millenium MarkIIも内部では信号を24bitで取り扱っていますが、アップコンバートした際に音が変化してしまいます。この変化が、あまりJPOPSでは、好ましくないのですね。クラシックの場合は気持ちいいのですが…

この問題に対策するために、私はTacT RCS2.0にJPOPS用カーブを苦労して作りました。

TacT RCS2.0は自動補正だけではなく、自分で2Hz刻みでの補正カーブをPCで作り、送り込むことが出来ました。日本でこうした製品が開発されるのは、もっとずっと後のことです。私は本業がIT屋さんですので、こうしたコントロールはお手の物です。

室内再生音の補正で谷が激しい部分についてはある程度補正を断念し、再生レベルの補正幅が小さくなるようにしたわけです。この結果大分良くなりましたが、まだ音の質の劣化は否めませんでした。また、定位感脚注6についての問題もちょっとあり、定位が甘くなっていました。

いろいろと試してみたのですが、結局、浜崎あゆみの音楽の再生のためには、TacT RCS2.0は活躍する場は無いと判断して、退場してもらうことにしました。TacTRCS2.0も、旧来の音楽を前提に設計された製品であったのだと思います。クラシック音楽や、それまでの音楽であれば大きく活躍できていたのですが・・・。

TacT RCS2.0を取り外すことで、音の鮮度を維持することは出来ましたが、私の求める音は、まだ遠い先でした。

ポリシーをまげて電源ケーブルを変更

JPS THE KAPTOVATOR
JPS KAPTOVATOR本1本が木箱に入り、シリアル番号のカードが同封されています
デュポンが開発した超耐熱超耐寒絶縁体Kaptonを使用しています

電源ケーブルを変更すると大きく音が変化します。ですから、そうして楽しまれている方が多いのですが、私はポリシーとしてそうしたことをしないことにしていました。ハイエンド製品の設計者たちが、電源ケーブルを含めて音を設計していると確信していたからです。
今回の鳴らし込みは、フルデジタルシステムであるために、手を入れる場所が少なく、簡単ではありませんでした。電源ケーブルに手を入れないとやりにくい鳴らし込みでした。

いろいろと試しているうちに、TacT Millenium MarkIIもLinn CD-12 のデジタル出力もギリギリまで突き詰めて作られていないと感じるようになり、ポリシーであったメーカ純正の電源ケーブルを使用することを、今回は諦めました。製品として不完全である可能性がある以上、自分の感性を電源ケーブルには進めてしまおうと思ったわけです。

この時点で、TacT Millenium MarkIIにはWIREWORLD ELECTRA III Reference Power Cordを使用していました。すこし音について未完成かなと思っていたからです。WIREWORLD社の最高水準電源ケーブルを友人から譲り受けたものでした。この音は素晴らしいのですが、ちょっと音のカラーが強いという難点がありました。

で、いろいろと電源ケーブルを試すことになりました。

ヨーロッパの純銀の電源ケーブルも試しましたし、各社の電源ケーブルも試してみました。あまり好きではないオーラルシンフォニックスの電源ケーブルも改めて試してみました。また、日本では発売されていないKIMBER POWER KORD IIとかも直接に輸入して試しました。

そうした中で比較的いい印象があったのがJPSの電源ケーブルでしたが、私が聞いた製品の水準では購入に値しないと思いました。ただ、可能性を感じたので、ままよと思い、高価なケーブルであるため試聴していなかったのですが、アメリカに対して同社の最高レベルの電源ケーブルであるJPS KAPTOVATORをオーダーしました。

JPS KAPTOVATORにはシリアル番号がついています。私に届いた製品のシリアル番号は、00017、00018でした。私の購入した時点では、世界で20本なかったんですかね、このケーブル。

後日に、もう1本入手したのですが、そのシリアル番号は、なんと00001・・・(^^;・・・まさかこのケーブルも全世界で20本ないなんてこと、あるのでしょうか・・・(^^;

2004/03/23

音については、エージングの間は音が確定せず判断に苦しみましたが、鳴らしているうちにJPS KAPTOVATORが一番いいと確信できるようになり、TacT Millenium MarkIIとLinn CD-12 の電源ケーブルに使用するすることにしました。

これにより再生される音楽の質は大分向上したのですが、問題は、私が求める音とまだかけ離れたままだったことです。これって凄いジレンマでした。音が向上しているのに、目標にはまだ全く近づかないからです、

よりよいデジタルケーブルを

KIMBER ORCHAD
KIMBER Orchid バランス接続専用デジタルケーブル
SONY CDP-X5000
SONY CDP-X5000
WIREWORLD ELECTRA III
WIREWORLD ELECTRA III

私が使用していたデジタルケーブルKIMBER AGDLは、かなり多くの製品を比較した結果利用していたものでした。すでにいろいろと比較済みであったので、改めて比較しようとは思いませんでした。いろいろと比較した後の新製品についていくつか貸して貰いはしましたが、やはりKIMBER AGDLが一番良いようでした。私のシステムにとってこれを超えるケーブルは、同じKIMBERの製品しか思いつきませんでした。

実は、KIMBER AGDLの上位ケーブルが1種類だけあったのです。KIMBER Orchidです。このケーブルのクラスでは、試聴も簡単には出来ません。そもそも在庫がないですし、あっても貸し出しが出来なかったりするからです。そう思い悩んでいるときに、新宿のダイナミックオーディオに寄ったところ、かつてKIMBERの製品を輸入していた業者が、デンオンに販売権が移動した際に在庫整理の為に製品を預けており、70%offで売っていたのです。といっても、アメリカの値段と一緒でしたが・・・。そして購入を実行に移すことにしました。

このデジタルケーブルは素晴らしいものでした。はじめてKIMBER AGDLよりもよいケーブルを知りました。このケーブルはバランス専用であるので、どのような機器でも使用できるケーブルではありません。バランスによるデジタル入出力ができる機器は限られているからです。

KIMBER Orchidにより、鮮烈でしかも緻密に美しい音を楽しめるようにはなったのですが・・・私が求める音とまだかけ離れたままでした。

比較試聴用にSONY X5000を購入

ここまで音を改善していても、納得いかないその再生音は、他の機械でも出せると思うように感じられました。そこで、ハイエンド製品ではない低価格な普及機(といっても私の感覚ではという意味なのですが)であるSONY CDP-X5000を秋葉原で探し出して購入しました。すでに保守品種、つまり製造されていない製品だったので、購入は大変でした。何件ものお店を巡り、お店の倉庫に在庫のあるものを見つけなければならなかったからです。

すでにSONYの新型CDプレーヤ群はSACDに移行しており、単体としてのCDプレーヤ/トランスポートの最高のものを目指す製品の方向にはありませんでした。バランスデジタル出力を持っていない機種では、Linn CD-12 との比較をすることが出来ません。バランス出力を持つ同社の最高水準CDトランスポートは受注生産品であり、時間がかかります。

他に、高機能のDSP搭載型がありましたが、なんとなく趣味に合わず、この機種にしました。この製品の設計者のかないまる氏はプライベートでホームページを開かれているので、お立ち寄りください。同氏の真摯な設計思想が伺われます。

かなり昔の話しになりますが、LinnがCDプレーヤを初めて開発した際に、最も研究したのがSONYのトランスポートだったそうです。すべて自社開発であることを誇りとするLinnもCDプレーヤは新参であり、かれらが当時最も良い製品と判断したのがSONYのトランスポートだったようです。そのような時代を大きく過ぎているのでLinn CD-12 は全く別な次元に到達していますが、SONYも光学系固定など新たな技術を開発していました。

実は、この時に、私にはCDトランスポートの技術的限界についての疑いが生まれており、ひょっとすると価格差ほどの価値は無いのかもしれないと思い始めていました。技術を突き詰めればよい性格を持つ製品であるCDトランスポートは、音の設計の領域が広いとは思えず、研究開発費がすべてではないのかと思い始めていました。そうした点では、SONYが世界でダントツな気がしました。ですから購入価格で25倍以上も異なるSONY CDP-X5000でそれを試してみたかったのです。

で、試したところ、ある意味では予想通りの結果になりました。

SONY CDP-X5000で電源ケーブルにWIREWORLD ELECTRA IIIを使用して、同軸でKIMBER AGDLを使用して再生する音は、Linn CD-12 をバランス接続でKIMBER Orchidを使用するのと、大変近い音を得ることが出来たのです。ただし、SONY CDP-X5000をバランス接続でKIMBER Orchidを使用するととてもムーディな音になってしまいました。また、電源ケーブルに対してSONY CDP-X5000はそう神経質ではなく、安定した音がしていました。

もっとも、私がSONY CDP-X5000を鳴らしていた環境は、普通は考えられないものかもしれません。使用した電源ケーブルであるJPS KAPTOVATORと比較すると、SONY CDP-X5000の価格は1/3に過ぎず、デジタルケーブルであるKIMBER Orchidと比較してもSONY CDP-X5000の価格は1/2.5です。

実際に使用したWIREWORLD ELECTRA IIIの価格でも、ほぼ同価格、KIMBER AGDLもSONY CDP-X5000よりもちょっと安いという感じです。本体が電源ケーブルやデジタルケーブルよりも安いとか、同じ値段なんて、正気のシステム構成ではありません。しかし、最高の水準で鳴らしてやることで本当の比較になるわけなので、今回はあえてこうした構成をとったわけです。

この比較した結果は、Linn本社やリンジャパンにも伝えました。もちろん大きな衝撃だったようです。リンジャパンのS部長は私の家に来て、実際に確かめました。その結果にも驚いたようですが、S部長がもっと大きく驚いたのは、私がポリシーを曲げて電源ケーブルを変更したり、たくさんのケーブルを比較試聴していたことのようでした。そうしたことを好まないことをよく知っていたからです。どれほど音に不満を感じているかを実感したようです。そうした不満の一環にSONY CDP-X5000との比較試聴があったわけです。価格差に相当する質の差がない限り、納得行かない私の姿勢が伝わったようです。

壁コンセントと壁内配線の変更

ここまでいろいろとしても突き詰めが足りないとしたら、もういくらも手をつける場所がありません。昔から無批判に使用していた部分も、手を入れる事にしました。

パナソニック電工 WN1318
医用コンセント パナソニック電工 WN1318
通常のコンセントよりも高い耐久性と信頼性をもっています
WATTGATE 381
WATTGATE 381オーディオグレード/24金メッキです

私の住んでいるマンションは、建築前に設計変更がオーディオ用に行なってあり、オーディオ専用電源回路が施工してあります。使用している壁内配線も、ヨーロッパ製の電源ケーブルでした。壁コンセントは、松下の医療用電源コンセントでした。このコンセントに着目しました。日本のコンセントは単線用に設計されているのですが、ヨーロッパ製の電源ケーブルは単線ではありません。ですから、施工時に工夫がしてありました。そこで、オーディオ用に設計されているコンセントに変更することにしました。

はじめはお店に相談して勧められたCRYO-L2を使用してみました。聴いた音は、まあ、売りやすさを考えた製品だなあという印象でした。チューンアップした状態では、このような音作りの製品と組み合わせると経験的にはいい結果を得られません。これでもオーディオ用コンセントとしてはまともな方だという話しでしたので、困ってしまいした。そこで、お店に在庫のあるコンセントをすべて借りて、順番に試してみることにしました。そして、これはというコンセントがありました。

WATTGATE 381 (私が購入したころは、WATTaGATEという名前でした。こちらの方が発音がわかりやすいですね) です。オーディオ用に全く新しく設計されたコンセントです。お店の評判は悪く、強いサウンドキャラクターが高域にあるとの事でした。覚えのある話題で、愛用しているKIMBER KABLEの音のイメージが、硬質な金属的という誤解を日本では受けているケーブルです。システムで最も悪い部分を明らかにしてしまう音の出方がする場合、その製品の音と誤解される場合があります。

KIMBER KABLEはそうした傾向の強い製品です。そして、確かに使用してみるとWATTGATE 381にもそうした傾向を感じました。で、これは制御できる音の問題点だと感じました。余談ですが、後日にWATTGATEがKIMBERの資本参加を得ていることを知りました。

WATTGATE 381の音を聴いているうちに、コンセントの場所による音の違いが激しすぎることに気付きました。この問題は、壁コンセント内の配線方法に原因がありました。これを解決後、再生音も実にクリアで広帯域そのものになりました。

最後に選択したのは、電源コンセントのプレートです。プレートがない状態ではノイズが乗り放題になりますので、UL規格コンセントのようにプレートがアースに接続される場合は、プレート無しでは使用しないほうがいいと思います。音が変化する内容については、耳で選ぶしかありませんでした。結局は、日本で販売されているWATTGATE 381に添付のものでいいかなあと思うようになりました。

さて、ここまでして、目的の音は出ているのかというと、出ませんでした。大幅な音質の改善を達成しているのにです・・・。
ただ、電源のここまでの改善により、Linn CD-12 とSONY CDP-X5000との音には大きな差が生まれてきました。Linn CD-12がやっと価格相当なグレードの片鱗を覗かせたといえるかも知れません。電源の影響を根源的に絶つと考えられていたLinn CD-12 のブリリアント・スイッチングレギュレーターも、Linn CD-12 の高度な性能からするとまだ不十分なアイソレーションしか達成していなかったのでしょう。

私は、SONY CDP-X5000との比較の目的はこれで完了しましたが、Linn CD-12 の音を相対的に判断するために、そのまま比較用に使用を続けました。この製品はトランスポートとして素晴らしいと思います(アナログ出力は聴いたことがありません)。余談ですが、SONY CDP-X5000の購入から電源の改善に至るまでの期間だけで3ヶ月を経ていました。

Linnより第二陣のCD-12が到着

Linn 本社には、私のクレームは逐一報告されていました。Linn 本社もクレームを重視し、日本にLinn 本社からマーケティング担当が訪れていた際には、お詫びにお邪魔したいと話していたそうです。しかし私の性格を熟知しているリンジャパンのS部長が、

「原因の確定と解決の見込みがたたないのにお詫びだけでお邪魔すると迷惑になる」

と止めてくれたそうです。よかったです。私は、お詫びだけで時間をとられること、性に合わないのです。気分によっては激怒してしまいます。お詫びする側の自己満足にしか感じないからです。

イギリスから送られてきたCD-12
CD-12がポンポンと積んである光景は珍しいですね
3台で900万弱ですね…(^^;

鳴らしこみがある程度進んだ段階で、リンジャパンが手配してくれたCD-12の第二陣が到着しました。Linn本社から私宛に新たに到着した2台のLinn CD-12 が届けられました。Linn本社では対策した製品を送りたかったのですが、それには時間がかかるために、私の満足行く製品を一刻も早く選んでもらい、時間を作り、本質的な対策を行なうというのが狙いだったようです。

私にはありがたいことでした。送られてきた製品は、組み立て者が異なる2台でした。ハイエンド製品は、組み立て者を含めてすべてが管理されています。もしも組み立ての問題であれば、私の判断からLinnの方でそれを押して知ることが出来ます。

写真には、比較試聴用のSONY CDP-X5000がラックに置かれているがおわかりいただけると思います。

SONY CDP-X5000とTacT Millenium MarkIIの距離が近いのは、使用していたKIMBER AGDLの長さの関係です。

この際に試聴した2台のLinn CD-12 は結局どちらも選びませんでした。

Linnより第三陣のCD-12が到着

Linn 本社は今回のクレームについて真っ向から取り組んでいるようです。Linn CD-12 に使用されているレーザーピックアップはPhillipsが開発した超高性能レーザーピックアップですが、取り扱いの難しさからLinn以外の会社は製品化できなかったという、F1みたいな部品です。私のところで発生した問題の本質がここにあるとLinn 本社の設計者たちは考えており、Phillips本社との話し合いをはじめました。

Linn本社にはTacT Millenium MarkIIが設置され、日本からは浜崎あゆみのCDが送られました。Linn本社では、なんという音楽を聴いているのかと驚いたかもしれません。浜崎あゆみのCDの作り方は、あまりにも定石破りだからです。ただし、イギリスは電源電圧が220Vなので、日本よりうまくなる可能性も高く、そう簡単に再現しない可能性もあります脚注7。私が気にしたのは、限定版であるマキシシングルが貴重であるために送れなかったために、違いにイギリスの技術者たちが気付かない恐れもあるかなあという点でした・・・。

2011/01/31

後日談ですが、イギリスのLinnを3日間訪問した際に、鳴らし方のプロ向け教育センターに行った際に、Linnの人たちのセットアップでは、浜崎あゆみのアルバムがうまく鳴らないでいました。で、私がセットアップし直して、鳴らしたところ、とても驚かれました。当然、クラシックやJazzも、さらに良い鳴り方になっていました。教員センターの人は、スピーカーの位置など、すべて記録していました。で、浜崎あゆみのCDをプレゼントしたところ、彼の気に入っているアルバムをもらいました…。で、思うのですが、イギリスに送られた浜崎あゆみのアルバム、Linnの人たちも上手く鳴らせなかったんではないですかねえ…(^^;

2001/06/01

昨日に仕事でお話しした方がこのページをご存知だったのですが、この節で浜崎あゆみのCDをイギリスに送ったのが私だと思われたという話しを伺い、驚いてしまいました。CDを送ったのはリンジャパンでして、私の要望を的確に伝えるために送ったものでした。TacTの製品も日本から送られました。ヨーロッパで入手するよりも早そうだったからだそうです。リンジャパンの方もはじめは浜崎あゆみをよく知らなかったので、いろいろと聴きこんで、なにを求めているのかを理解した上で、リン本社に伝えてくれていたのです。リン本社と私の間で右往左往していたのではなく、私の代わりにリン本社と積極的に渡り合ってくれていました。感謝、感謝です。余談ですが、このページの英訳もリン本社のCD-12設計部隊に渡されているそうです。

第二陣のLinn CD-12 から1ヵ月後、第三陣のLinn CD-12 が2台、Linn本社から届きました。今度の製品は、なんらかの対策が行なわれているようで、シリアル番号が新しいシリーズになっていました。Linn本社からは、これらの機械が戻る場合は、直ちにイギリス本国へ送り戻してほしいというコメント付でした。

この2台はあきらかに違う印象のある機械でした。即断することは避け、1週間鳴らしてみることにしました脚注8。結局は2週間鳴らすことになりましたが、それは私が本業で忙しかったためです。その間にイギリスのLinn本社からは、どうなっているのかという問い合わせがリンジャパンに寄せられていました。

この新しく来た2台のうち1台は、納得のいく水準に近いものでした。まだ、出てほしい音は充分には出ませんが片鱗が感じられます。過去のどのLinn CD-12 よりも納得できる音でした。

私がそれまで使用していたLinn CD-12 と、今回送られてきたもう一台のLinn CD-12 はイギリスに送り返されました。Linn本社では、これらについて精密な分析に入っていると思います。

私が気に入ったLinn CD-12を手元にするまで、計9台のLinn CD-12を、比較することになったのでした。

今回の製品を私が受け付けたことで、Linn本社もリンジャパンも一旦安堵し、本格的な分析と改善の手続きに入りました。ちょっと時間がかかるかもしれませんが、より高い水準に達したLinn CD-12浜崎あゆみを再生するために改めて送られてくるでしょう。この改善が完了後に、全世界のLinn CD-12 はフィールドアップグレードが実施されることになると思います。Linn CD-12Linnの魂でもあり、最高であることが約束されている製品だからです。

オーディオ機器は、ただ、人と音楽の為に・・・

ひょっとすると、読まれた方の中には、まさか浜崎あゆみのためにこんな騒ぎになるなんてとか、そうした声に対してリンジャパンやLinn本社がここまで対応するなんて・・・と思われた方がいらっしゃるかもしれません。結局はPhillips本社も巻き込まれてしまったわけです。わずか十数枚のCDの再生音が問題だという苦情がその発端でした。

しかし、これって正しい反応なのです。音楽の姿は時代とともに変化し、それに対応することがハイエンドオーディオ機器メーカの真の姿です。新しい音楽の姿に対応することが出来て、初めてハイエンド機器としての実力を現すことが出来ます。この音楽は、これだけの内容があるのだ、と示せることがハイエンドオーディオ機器に課せられている義務であり、すべてです。それは、ただ、人と音楽の為にあるものであり、すべてのオーディオ機器の指標となるものです。
リンジャパンのS部長は

「今回のトラブルは素晴らしいチャンスであるとして捉えて、時間がかかっても必ず解決させていただきます」

とおっしゃっていました。もう日本のメーカーが忘れて久しい心のあり方かもしれません・・・。

このお話の顛末は、オーディオの遍歴15 感動させる音などない・・・でも、意味を明らかにする音はある・・・をご覧くださいませ


第11章 フルデジタルシステムへの移行
オーディオの遍歴 INDEX
第13章 友来りて、日は暮れ行く

脚注1

あんまり簡単に書いているので心配になりますが、だいたい正しい表現だとは思います。たとえば、法華経なんかは、「あらゆる人はやがて成仏することを得るのだ」ということを説明している経文です。多くの部分は、世尊(ゴータマシッダルタ/お釈迦さまのこと)のその言葉に対する弟子たちの驚きと、世尊が解き明かした真実を示すための奇跡の物語です。たとえば、巨大な宝塔が地より現れて大音声をもって世尊を称えます。「善哉、善哉(よきかな、よきかな)、釈迦無二世尊、よく妙法を明らかにしました」、この音声こそ、遠い彼方の世界の仏、多宝如来の声であり、妙法が説かれるとき自身が奇跡をもってそれを明かすという誓願を立てていたのでした。なんて感じです・・・

インテグラル・セオリー理論の本なんて、だいたいこんな風に1行で大切な概念を説明しちゃうんですよね。

うーん、オーディオ談義のはずなのに・・・

脚注2

この話題を掘り下げて書いていくと、いくらも書くことが多くなってしまいますね。

元形については、C.G.ユングの最後の著作である「人間と象徴」などにわかりやすく説明されています。ユングの著作のわりには分かりやすいものです。この本は、ユングが一般向けの著作を勧られ、彼が自身の夢で一般大衆が彼の著作を理解するというものを見たことから執筆されました。そして、彼の担当部分は彼が亡くなる10日前に完成し、本そのものは彼の弟子たちにより完成されたものです。

インテグラル・セオリー理論についてはいろいろな著作がありますが、ここで書いている内容はケン・ウィルバーの「アートマンプロジェクト」で説明されているような概念を前提にしています。

しかし、一行で書いてしまうと、凄いなあ・・・。

脚注3

変換というのは、この場合では元形の形態がいろいろと変わることを言います。つまり、浜崎あゆみそのものが、元形として捉えられうることを示しています。だから、カリスマであることが出来、浜崎あゆみになりたいと希望を直接に与えるのだと思います。本人にはそうした意図は当然ありません。元形とはそれを見る人にとってのものであり、対象となるもの、人や概念自身にはんらかの意図があるものではないからです。言い換えると、意図的に元型として変換/投影させることはできません。

うーん、オーディオの話題を書いているのだろうか・・・

脚注4

実存とは本質的な存在という意味です。つまり、本質的な内奥からの欲求という意味です。多くの場合、このような欲求が人を突き動かす最も強い力であると考えられています。

具合の悪いことにオーディオメーカーもされたもんだと、書いていて思いました。

脚注5

ハイエンド製品は、出荷後も製品の改善が続けられるので、購入時期により音がより改善されている場合が少なくありません。ですから、ここで話題になったような話しが出るわけです。このような改善結果は、ユーザーが希望すればいつでも購入済みの同製品に対して反映してもらえます。

脚注6

定位感とは、音がサウンドステージのどこから鳴っているかを感じられる感覚を言います。サウンドステージとは、音の出てくると感じられる範囲をいい、3次元的に感じられます。良く再生されているシステムであると、サウンドステージはスピーカーの外側に広がり、さらに、スピーカーの上方と下方にも音が広がり、広大なサウンドステージとなります。その中でどこから聴こえるのか明確であるほど定位感がいいといいます。

脚注7

一般的に、電源電圧が高い場合の方が、オーディオ機器には都合がいいようです。電源電圧が高い場合は、同じ機械でも再生する音の質が良いほうに変化します。

脚注8

ハイエンドオーディオ機器の性能が本当に発揮されるためには、1週間程度の電源投入は必須です。ただし、どのような音の変化を辿りそうかある程度を勘で判断できる場合は、それで結論にしてしまうことが多く、このように1週間の投入後に判断しようというのは、ちょっと想像できなかったという背景があります。



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