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オーディオの遍歴
第05章 オーディオの基本は人の中に

第04章
鳴らし込みとオーディオケーブル
オーディオ機器の使い方を解説した本を書きました。オーディオ業界に縁のない私と出版社が、立場を生かして作り上げました。みなさんのオーディオ機器の能力を引き出して、音楽や映像を楽しんでくださいませ!!・・・宣伝でした・・・(^^)

出逢い

今ひとつ自分のシステムが納得できなかったのですが、その解決を急ぐ方法はわかりませんでした。そんな中、ニューヨークでKRELL KPEを購入しました。これはKRC2に追加するフォノイコライザーで国内定価は10数万くらいしましたがアメリカで買えば当時は5万くらいでした。私は、しばらく使用しなかったアナログの復活を考えていたのです。

しかし、システムの質は昔よりも大きく向上しており、私の感性も大分進歩していました。KPEがマイクロのBL91と組み合わせて出した音に驚いてしまいました。とても聴けるものではなかったのです。確かに聞き覚えのある音なのですが、聴きたい音とはあまりにもかけ離れていました。

この頃、ほとんどの国産レコードプレーヤーは壊滅していました。専業メーカーはだいたいが解散しており、そうでないメーカーでも細々と普及機を作っているだけでした。そこで、私はLinnに興味を持ちました。長い歴史を持つLinn Sondek LP12は高い評価を受けるアナログプレーヤーでもあったからです。

Linn Sondek LP12

このような背景から、秋葉原にあるLinnのショールームに行きました脚注14。これはニューヨークに行くちょっと前のころでした。私が興味のあったのはlP-12だけでしたが、試聴室があったのでシステムの音を聞かせてもらいました。私はその音を聴いていて、不自然な音だなと思いそのまま伝えました。担当者は困り、ある人を呼んできました。それが今Linnジャパンで部長をされているS氏です。当時は、このショールームに来たばかりでした。S氏は私の評価を聞いて、システムを再チューニングして私の好みの音に合わせてくれるとのことでした。後日、再訪問したのですが、やはり私の聴きたい音とは大きく違います。当時のLinnはパワーアンプ側にチャンネルデバイダーを組み込めるようになっており、そこまでしてチューニングしてくれていましたが、ショールームの部屋が部屋でしたし、私の聞く音楽がクラシックではないため、音の追い込みがまだ不足していたのです。このときの私の芳しくない反応に、S氏が語った言葉に驚いてしまいました。

「よろしければお伺いしたいのですが」

私は、いいですよと答えました。当時のLinnはこのような訪問してのシステムコンサルテーション式の販売はしていませんでした。

その数日後、私のシステムの音を聴きながら、S氏は「あれ、ちょっと違うな」とつぶやきました。私はドキッとしました。私もそう思っていたからです。私は「電源の質の問題だと思うんですけどわかんないんですよ」と答えました。S氏は、「すいません、持ってきた機械があるので比較して聞かせてもらってもいいですか?こちらの機械は聴き慣れているので判断しやすいので・・・」、そして取り出した機械がLinnKairnでした。Linnのプリアンプです。私はそこから出てきた音に驚きました。KRC-2よりも艶やかで、なによりも私が聞きたくなかった音が出ませんでした。S氏は「やっぱりそうだ、電源はここから取られない方がいいと思います。あちらの方がよろしいんじゃないですかね。次回に電源ケーブルを作ってお持ちします。」私は舌を巻いてしまいました。私には手におえなかった問題を30分足らずで、解決の方向を示してくれたのです。この人と付き合うことは意味があると直感的に思いました。

Linn Kairn

「あの、折角ですからお持ちになったプリアンプ、買わせてもらいます」
「え、そんな必要はありませんよ。電源の問題ですから。お邪魔したのは売るためではなく私自身もお宅様のシステムの音に興味があったからなんです。普通のお客さんでしたらお店の音にご満足いただける場合も多いので、お邪魔する必要を感じたんです。実は、プライベートでお邪魔しています」
「短時間でシステムの問題点をおわかりになられたそのご経験はすごいですよ。私もお付き合いをお願いしたいという意味で買わせてもらいたいんです。その音も、いいなあと思いましたし・・・」

こうして私はLinnのユーザーになりました。ただ、私はLinnの製品を買ったことはほとんど口外しませんでした。しかし、友人に紹介することは厭いませでした。私は、製品ではなくS氏を紹介したかったのです。

人のつながりと伝播

ある日、S氏が私の家にLinn Kloutをデモに来る日がありましたので、友人の夜梨さんを呼びました。この日の事は夜梨さんが昔作られていたホームページにも記載されていました。このページを見ると、当時の夜梨さんは製品の違いとして捕らえていたみたいですが(そうだろうなと前から思っていました)、私はKSA100Sとは全く違う鳴らし方でKloutがなっていたので、鳴らし方の問題としてみていました。すでに述べたように、鳴らし方による音の練れ方と、製品の音はあまり簡単に峻別できません。ですから、デモで違いが判定できても、鳴らす環境がある程度同じくらいに練れていないと、判断が難しいものです。あ、話題が逸れましたが、それから夜梨さんのシステムがすべてLinnになるのにそう時間はかかりませんでした。これはS氏の適切なアドバイスがあったからでしょう。

システムをLinnに切り替えた私の友人もいます。S氏のアドバイスを入れながらシステムを構築したほうが簡単に満足行くシステムが実現できるからです。

この頃は比較的知られておらず、評価もそう高くは無かったLinnが、この後に急激に高い評価を受けて、今日に至りました。S氏がオーディオ評論家のところを訪れるのですから、当然のことのように思えます。また、夜梨さんのFAVの活躍の賜物もありました。そして、お店を訪れた人たちの耳は、なにがいいのかを正しく判定していったのです。お店も、Linn以外にもいい製品を紹介する努力を惜しみませんでした。

オーディオは音を智る経験が大切です。
豊かな経験のある人に道しるべを示してもらったり、問題の解決を相談できることにより、無駄なコストや時間を浪費しないで、この経験を大きく豊かなものに育てることが出来ます。

アメリカやヨーロッパにはそうしたコンサルテーションが出来るお店は比較的多くありますが、日本はいくらもありません。残念なことです。

ところで私のシステムですが、システムはLinnには変更になりませんでした。すでにKRELLである程度の水準に達していましたし、鳴らし方を変更することで対応できる範囲だと思っていたからです。また、私が希望するちょっとした味付けが、Linnの製品からは得にくく感じていたからです。S氏からは、魂を込めた音ですよね、と論評されたことがあります。Kairnは半年で使用を止めていました。かなりの間所有していましたが、わたしの勤めていた会社の会長にお譲りしました。まだ愛用してくださっています。


第04章
鳴らし込みとオーディオケーブル

脚注14

今は独立してサウンドクリエイトというお店になっています。



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