第07章 ドイツの音楽、ドイツの音、そして世界の音 | オーディオの遍歴 INDEX | !第09章 新しいオーディオシステムの模索 |
フランクフルトのテクノパーティーの写真がないので… イメージ写真です…アラビア語の新聞に載っていた ドイツのダンスパーティーの一コマ |
Apfelwein / アプフェルワイン,エッベルヴォイというと地元式 フランクフルトのような中部ドイツでビールよりよく飲まれる |
ドイツの音を知ることは、ドイツ人が愛している様々な音楽を知ることでもありました。私は日本ではテクノなんて音楽は大嫌いでしたし、浜田麻里が好きでありながら電子楽器の音には引っかかるものがある場合もあるにはありました。そして、ドイツテクノを楽しめるようになった私の中には、そうした引っかかりはすべて一掃されました。
音楽はクラシックやJazzだけではなく、様々なものがあり、楽しいのです。
フランクフルトで行なわれたフランクフルト市主催の大テクノパーティーは、なんと地下トンネル500mを通行禁止にして、何百というスピーカーで埋め尽くし、ライトとスモークの中をビールを楽しみながら有名なグループの音楽を2日間48時間ノンスットプで楽しむというものでした。ホテルからはお詫びのレターが入っていましたが、私が二日間、終日楽しんでいたのは言うまでもありません。
フランクフルトで行われた大テクノパーティーは、町中をあげて行われていました。私のよく行っていたお店も参加していましたし、フランクフルト中のライブを行うお店が時期を一にしていろいろな催し物をしていました。
また、集まる人たちも、ドイツの近隣から、テクノの大好きな人たちが集まったようです。
ローマ時代からゲルマン民族は体格の良いことで知られているわけですが、そのようなドイツ人たちのこと、体の線を生かした服を着ることがおしゃれの基本です。気温が15度もあればおしゃれな女の子たちはおへそを出すような服を好んで着始めます。
これがテクノ好きとなると、男も女も、日本では過激としか思えない格好になってしまいます。そんな中で、私はアプフェルヴァインを片手に飲みながら楽しんでいたわけです。
素直な話、日本人が珍しいというよりも、東洋人が珍しい状況で(フランクフルト地域は日本人そのものも多くはありません)目立たないわけはありません。ドイツ人も古い人たちは英語を話せないのですが(英語で馬鹿話をしていたら、ここはドイツだからドイツ語で話せと絡まれたことがあります)、若い人たち、特にテクノが好きな飛んでいる人たちは片言で話が出来ます。
「日本人??」
アメリカでは中国人と日本人とおんなじに考えている人が多いのですが(だいたい、どこにあるのかも知らない人が多いんです、この国・・・)、ドイツ人はドイツまで来て遊んでいるのは相対的に豊かな日本人であると類推している人が少なくありません。自然と論理的に考えるんです、ドイツの人は。ですから、いきなり日本人かと聞かれることが比較的多くなります。
「そう」
「すげーやー」
「そう?」
「今日みたいなパーティーは、日本で作られている楽器が無かったら出来ないじゃないか!すばらしい楽器を作ってくれてありがとう!ワウ!!」
私は面食らってしまいました。たしかにドイツで売られている電子楽器のほんどはローランドとかコルグであり、みんな日本製です。でも、ドイツ人が使うと楽しいんですよね。そう考えると、ちょっと意味深な挨拶をされたなー、と思いました。
華原朋美 LOVE BRACE |
そのような音楽を楽しむ心の変化が、初めに形に表れたのが、華原朋美のLOVE BRACEというアルバムを聴いたときに感動したことでしょう。
私はそうした自分に驚きましたし、友人は私の話しを聞いて私以上に驚いてしまったようです。
それまでの私は、音楽のジャンルにかかわらず、マイクが無いと音楽にならない歌手なんて馬鹿にしていました。浜田麻里は例外でしたが、歌唱力はある人でしたので、大きく私の嗜好の路線を外れている訳ではありませんでした。クラシックの声楽家だって、ホール中に響かない声の持ち主は、なんで人生を間違えたんだと思って聴いていましたし、日本のジャズシンガーなど論外に思っていました。マイクに口を押し付けて唄う滑稽さをライブハウスで軽蔑して見ていたわけです。
そのような感覚の私は、日本の歌謡曲が大嫌いでしたし、JPOPSなんてよけい嫌いでした。ボイストレーニングも充分に受けていないとんでもない連中と思っていたのです。
そんな私の心が、理屈に関係なく華原朋美のLOVE BRACEを受け入れてしまったのです。いつも感性は理性よりも先に行きます。私の理性は大混乱になってしまいました
そんな中、ドイツのホテルで見ていた日本語放送で気に入ってしまったのが、デビューして間もなかった、安室奈美恵です。でも華原朋美ほどではありませんでした。
もっとも、これが私の誤解、つまり自分は小室の音楽が好きなのだと思ったきっかけにはなりました。実は誤解で、どのアルバムを聴いても「ふーん」としか感じませんでした。小室系のほとんどのアルバムを購入しましたが、結局のところ一番すきなのは華原朋美のLOVE BRACEでした。
いずれにしても、私は過去に受け入れることが出来なかった音楽 JPOPS に心が開いたのです。これは、私の音楽観にとても大きなインパクトを与えました。
ワインヤード型コンサートホールの例 世界遺産 オーストラリア シドニーオペラハウス ワインヤード型コンサートホールは、 人の肉声やアコースティック楽器の音を反射させて 響きを作るコンサートホールで、反射音が 複雑に錯綜することで音が汚れることを防ぐために考案された、 PAを使わない音楽のための究極のシステムです |
現代の音楽シーンでPAシステムを使わないのは クラシックと雅楽だけかも… |
長い人類の歴史の中で、音楽の手法は音を出す技術の進歩でした。あらゆる楽器はより大きな音を出せるように発展しましたし、声を楽器とするための技術も声楽やボイストレーニングとして発達しました。
特に、声は正しい発声方法をしないと、不安定で小さな音量しか出ません。そこでボイストレーニングが大きく発達したわけです。
楽器や声の音の大きさは、進歩の過程でもありました。
そうした中で、マイクを利用する音楽の形がロックの発展以降、様々なジャンルの音楽に進展しました。これは劇的な影響を与えました。なぜならば、小さな音でも充分な音量に出来るために、楽器の音が小さくても、ボイストレーニングが不十分でも、音楽の態をなすようになったからです。
楽器の音を大きくするためには、犠牲がありました。それは絶妙な音色を実現することが出来なくなったということです。現代のグランドピアノは素晴らしい音量と音色を実現していますが、原理的に前身となったハープシコードは全く異なる音色の楽器です。ハープシコードにはピアノのような大胆な音は出せませんが、ハープシコードの繊細さはピアノにはありません。
同様な話題として、邦楽の楽器の美しい音色は、コンサートホールによる反響により汚されてしまいますので、普通の演奏する方法では大きな音にすることは出来ません。
これは声にも言えることです。ボイストレーニングを積んだ声は、楽器としての完成度が高まる替わりに、繊細さを失ってしまいます。それでも繊細さがある声こそ、天使の歌声であり、稀人の声です。楽器としての声には天性が必須でした。そうした天性に音楽の感性が備わると、すばらしい歌い手となったわけです。現代でも、稀人の歌声は私たちを癒してくれています。
ところが、マイクを利用すればこの問題は解決されてしまいます。ですから、昔ほどに天性を声に求めません。逆に、ボイストレーニングや現代の楽器は、失われた繊細な音という欠陥を露呈してしまいます。ボイストレーニングを積むほどに声は合唱団の声へと変貌してしまうからです。華原朋美のLOVE BRACEは、ボイストレーニングをしていないからこそ出せる声を生かしきったアルバムでした。これは今だから私も説明できることであり、当時は自分の感性が全く理解できませんでした。こんな歌い方の歌を好きになるはずが無かったのです・・・。
JPOPSはオーディオを前提とした全く新しい音楽です。世界の最先端にある音楽であると私は確信しています。
かつて音楽がその場で失われた時代、音楽家が長く活動することが大切でしたが、音楽が記録されるようになったとき、音楽は永遠の形を得ました。JPOPSの歌手は長く音楽活動することが無くても、作られた音楽は永く愛されていきます。形を持った音楽作品は、音楽家とは異なった命を持つのです。
このような音楽は、オーディオ設備により最善の音楽が生まれるために、ライブ演奏は本質的には、かみ合いません。歴史あるクラシックや様々な民族の音楽と、オーディオ設備を必要とする音楽は、様々に絡み合いながら新しい時代を切り開いていくのでしょう。
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