オーディオの遍歴
第03章 ハイエンド 心から心へ…


第02章 ハイエンドへの目覚め オーディオの遍歴 INDEX !第04章 鳴らし込みとオーディオケーブル

Apogeeとの出会い

KRELL KSL / KST100 により、かなり改善されましたが、浜田麻里を聴いていると、どうしても納得がいきませんでした。この低音は、やっぱり違う・・・私のそうした感覚はぬぐうことが出来ませんでした。そこでKRELLの輸入代理店に相談することにしました。当時はRFエンタープライズが輸入していました。それまでの経験から、相手にされないことは無いと思っていまた。ハイエンド製品とは手厚いサポートが伴うものだからです脚注10

Apogee Caliper Signature
Apogee Caliper Signature
インピーダンスが3Ωなので
当時日本のアンプでは駆動できませんでした
特性は暴れていますが平面波なので
室内の再生音の管理は楽です
素晴らしい音でしたが日本では修理不可能でした
KRELL Dagostino氏のリスニングルーム
KRELLの総帥 Dagostino氏のリスニングルーム
KRELL KASでApogee最大のスピーカーを駆動していますね
KRELLの総帥ダゴスティーノ氏と

電話したところ、KRELL担当部長という方が私の家を訪問してくれました。そして音を聴いてから「この低音はRS8 Kapaaがもっている低音補強回路のものです。こればかりはどうしようもないですね。」といわれました。

私はなにかお勧めのスピーカーはないかと尋ねました。「立場として私どもが輸入している製品をお勧めするわけですが、でもいいスピーカーでApogeeというメーカーのものがあります。リボン型のためインピーダンスが低いため普通はお勧めしないのですが、KRELLでしたらなんの問題もありません」
Apogee…私には初めて聞く名前でした。

その後、ダイナミックオーディオに行くとApogee Caliper Signatureというスピーカがデモされていました。

私はその構造に驚いてしまいした。エンクロージャー(スピーカーを入れる箱のことです。様々な働きがあります)がないからです。振動盤が大きくあるだけでした。このままでは、振動盤が前後に逆相の音を出してしまいます。私のそれまでの常識では、そうした構造では回折波(回り込む音のことです)が回り込み、低音はほとんど出ないはずでした。しかし、店頭で聴いてみると音質は判りませんでしたが、ある程度は低音が出るようです。また、私の性格では、このような新機軸はそのままで興味の対象になってしまいます。私はRS8 Kappaを下取りに出して、Apogee Caliper Signatureを購入しました。私には、気に入って使っていた製品は知り合いや友人に譲る習慣があるので、あまり下取りに製品を出さない方なのですが、このスピーカーはあまり薦められる製品とは思わなかったので、いつもと異なるパターンになり、下取りに出したのでした。

Apogee Caliper Signetureは上の写真のようなものですが(この写真は初期型のものですが、私の購入したのは後期型でした)、リボン型といいます。大きく見える部分が中低域、右に見える細いスリットが高域のリボンスピーカーです。このリボンスピーカーは、高温に耐えられるフィルムの上にアルミ箔が接着されたもので、アルミ箔に電気を流して、背面に多く配置された磁石との関係により直接に膜全体を振動させます。振動膜の質量は大変軽く、アンプにより空気を振動させるという感じの動作になります。後日に知りましたが、KRELLの総帥であるダゴスティーノ氏も、このころApogeeを愛用していました。左の写真はKAS(KRELL Audio Standardという当時KRELL最大のパワーアンプ)が発表された頃のダゴスティーノ氏のオーディオルームで、Apogeeの最大のスピーカーが設置されています。

私の家に来たApogeeは、実によく鳴ってくれました。素晴らしいクリアな低音、透明な中高域、私は音を堪能する意味を、再発見しました。この頃の音は、私が今使用しているシステムを基準に思うと比較のしようも無いものですが、音楽や映画を楽しめる蜜月時代でした。私はいまでもApogeeの音は素晴らしかったと思います。残念ですが、今では製造されていないようです。Apogeeのフルレンジリボン型スピーカーは、開発者の果敢なトライで作られたスピーカーでしたが、理論的背景はそれ程なく、特性的には問題がある程度あったかもしれません。作りも意外とアバウトでしたが、それでも音は良かったです。SONYも似た方式(静電型平面スピーカー)のスピーカーを開発して販売していたことがあります。

なぜ海外製品の音が素晴らしいのか

このころ友人といろいろな話しをしていましたが、一番大きなテーマはKRELLやApogeeがなぜこんなに音がいいのかということでした。というよりも、私たちが聞きたい音楽をうまく再生できるのかということでした。

実は私の友人(高校時代に放送部の部長だった人です)は、当時に大手オーディオメーカーの音響研究所に勤めていたので、日本のメーカーの開発の裏側の話しをいろいろと聞けました。

この写真は2000年の輸入オーディオフェアで撮ってもらいました。 「いつも素晴らしいプロダクトをありがとうございます。良かったら写真をご一緒いただけますか?」 「私どもの製品を買って頂いてありがとうございます、もちろんご一緒いたしますよ」 写真からも人柄が伝わりますね・・・ハイエンド製品を作っている人って、人柄の深い人が多いように思います。

彼の意見では、つまるところ、日本のメーカーは技術は世界一なのですが、製品を作る際に音をまとめる作業で、昔からの人が強い発言力を持っているために、新しい時代の音楽に合わせることが出来ないのではないか、というものでした。これは説得力のある話題でした。素直な話、メーカの試聴室でロックがかかることはほとんどなく、JPOPSだって古い人はあまり聞きません。だいたい、そうしたものを聴くことを知らない人たちが多いのです脚注11。開発者たちがちゃんと聴いたこともない音楽が、まともに再生できるはずはありません。

オーディオの遍歴後半で出る話題ですが、クラシック音楽は再生が最も簡単な音楽の一つです。その理由は、楽器の構造そのものにあります。楽器の音色は機械的な高調波歪として生まれています。ですから、再生や、音色のコントロールがしやすいのです。それに対して、電子楽器は人工的に作り出した音であるため、クラシック音楽の場合のように音色を設計した機器ではまともに再生できない場合が生まれてしまいます。

ところが、KRELLでは、クラシック以外にロックやポピュラーも試聴に使用していました。なにしろ試聴は会社だけではなく開発者たちの自宅でも継続して行なわれているのです。欧米のハイエンド・オーディオ製品を開発している人たちは、心の底から音楽を愛し、楽しんでいるからです。音楽の趣味もなく、大学を出てからテキトーに就職してオーディオ機器を開発している日本のメーカーとは、スタートする場所が全く違います。
また、別な話題として、国産メーカが得意とする技術の世界とは、計測できるものに頼る傾向があるために、感性の評価よりも計測できるものに、つまり安易な道に行きやすくなります。お金も計測しやすいもののひとつです。たとえば、KRELLが行なっているような単一基盤に全パーツを配置することは、経済的にも問題ですから、国産メーカーは選択しにくいものとなってしまうのです。

実際に、ほとんどの製品は量産時に改善と称する変更作業を行なう場合が多く、実際にはパーツの低価格化が行なわれます。言い換えると、強い個性によって管理された組織でないと、明確な音の確立はできないということになります。たしかにKRELLは100人くらいの企業であり、Apogeeに至っては20人くらいではないかと思います。しかし、創業者が開発者であり、その音ゆえに製品は世界から支持を受けました。

心よりいず、願わくば心に通じんことを…ハイエンド製品も同じ・・・

ベートーヴェン
楽聖と呼ばれる、ベートーヴェン
耳が聞こえなくなってからも名曲を多く生み出しました
世界で最もベートーヴェンを敬愛するのは日本人です
絶対音感のイメージ図
絶対音感は、教育する側にはわかりやすいけど、
人の感性としては歪んでいます
人を演奏マシンとするのにはいいかも知れないけど、
そうした演奏ならコンピュータで十分かも…(^^;
KRELL KRC-2
KRELL KRC-2 Control AmpLIFIER
ハイエンド製品の高性能さは
使う側になにを求めるのか教えてくれました

この小見出しは、ベートーヴェンが「作品番号123 ミサ・ソレムニス」の楽譜に書き記したメモを訳した言葉です。ベートーヴェンを知らない人は日本ではほとんどいません。そして、日本人ほどベートーヴェンを愛した国民は珍しいかもしれません。ベートーヴェンの音楽は、その精神性において高く日本人から評価されてきましてが、本人もそれに足る音楽や言葉を残しています。
オーディオ製品で、音を最優先に設計され製造されている製品を、ハイエンド製品といいます。妥協を排しているために、決して使いやすい製品ではありません。置いただけではまともな音が出てこないからです。価格的にも高いものが多いために、ハイエンドとは価格が最も高いという意味だと思われる場合も多いみたいに思います。実際にはハイエンド製品にも価格の大きな幅があり、普及価格帯の製品もあります。

ハイエンド製品には、明確な音の確立が求められており、設計者の音楽観が具体的な形になった製品として作られています。ですから、卓越した感性や魂によって統べられた、卓越した技術が基本となります。

国産メーカーは、世界で最も進んだ技術を持っているのですが、それを統べるものは個性なき組織や合意と妥協でした。ですから国産の製品については、ハイエンド製品たる資格は価格と重さだけとなってしまっているかも知れません。価格を重さで割れば、日本の高級機は世界で最高のパフォーマンスを持っています。
音を聴くことは別ですが・・・。日本には古いことわざで、「仏を作って魂入れず」という言葉があります。これが私たちが国産の製品を使えなくなった本当の理由であると、今でも思っています。

これに似た話題は日本の音楽の世界にもあります。この節に掲げた言葉を残したベートーヴェンは、若い頃にピアニストや音楽教師をしていました。子供たちにピアノ演奏を教える際に「個々の技術よりも全体の音楽性を優先しなければならない」と語ったといわれています。
教える側からすると演奏技術などのほうが明確に指導できるので教えることが簡単であり、現代においてそうした教育方法は高い完成度になりました。そして過去には稀であった絶対音感を持つ人も多く育てられています。演奏技術的な教育は過去よりも遥かに進歩しています。しかし、日本でそうした教育をされた音楽家たちは、海外で活躍する際に愕然とするといいます。

海外では相対音階が中心であり、必要に応じて基準音が数ヘルツもずらされている場合が多いからです。

絶対音感が逆に演奏家を苦しめるといいます。教える側の都合で考えれば明快で正しいはずの絶対音感は、しょせんは技術的なものに過ぎず、音楽の現状にすらあっていません。

だいたい、音符や音階は音を記録するために考えられた古い方式であり、現代では他の方法もあります。若年層に人気をかつて博していたSpeedの子達(このコンテンツを書いたこの人気のあった女性ボーカルグループ、当時全員10代でした)は、いい年になっても音符を読めなかったといいます。音楽を実現するための基準として絶対音感が役立ったのは過去の話題ではないでしょうか。そして、どの時代にも普遍的に要求される感性となると、客観的な基準が無いためにはるかに大変です。演奏機械と演奏家を分つ本当の基準だからです。

このような話題は、日本のオーディオ製品にも内奥で通じているのではないかと思います。測定して、製品が作れると、なんの根拠もなく思い込む技術者が多いのです。音の感性と、どのような技術的要件に関係があるのかは、いまだにワンっていないのにもかかわらずです。これは、ちゃんと音楽を聴けば、ある程度トレーニングすると、だれでもわかのですが…。そのためには、音楽を愛し、そうした生活を送ることが大切です。それが出来ないといことの意味、それは、正しい資質(right Staff)が抜け落ちているのではないかということです。

KRELL KRC-2の鳴らし込み

そうこうしているうちに、とても驚くことが起きてしまいました。KRELLの輸入代理店がRFエンタープライズからラックスに変更になったのです。私はマッキントッシュXR16のトラブルを体験していたので、気に入っているKRELLのメンテナンス不能を恐れました。機械ですから必ず壊れると考えていたのです(実のところ故障を体験したことはありませんが・・・)。

そしてラックスの輸入する製品カタログを見ると、プリアンプの上位機種が2種類になっていることに気づきました。KRCとKRC-2です。特にKRC-2は最新型で、あらゆるスイッチは廃止されリレーとなり、ボリュームも新しく開発された低歪率アナログスイッチを利用したデジタル制御アッテネーターとなっています。私は自作時代にこのような構造のアンプを作ってみたいとも思ったことがあり、とても気に入ってしまいました。

実は、KSLとKST100の組み合わせの音が結構甘い感じであったので、もうちょっとしっかりした音が聞きたくなっていました。しかしKRC-2の価格は定価85万円でした。手も足も出ないナーと思いましたが、友人がKSLを引き取ってくれるとのことでした。そこで、他の友人も誘い、KRC-2を2台、KSA-100Sを2台買うことにして、お店と交渉することにしました。このころはKRELLというメーカーに対して、私も友人も品質や音の作り方について全幅の信頼を置いていましたので、試聴はどうでも良かったのです。まだラックスはKRELLの販売店を東京に作っていませんでした。私たちはダイナミックオーディオに行き価格交渉、そして38%offで交渉をまとめました。こうして私は比較リーズナブルな価格でKRC-2を入手しました。

KRC-2は初めの数ヶ月、実に苦労しました。この製品は、KSLが一般大衆車であるとすれば、F1のレーシングカーだったのです。鳴らすための環境が整わない限り、最も悪い部分の音を出してしまうのでした。

当時の私は、ケーブルやオーディオラックや電源にはあまり頓着していませんでした。オーディオラックは振動対策が重要とは思っていましたが、そう大きな音で聴いていたわけでもなく、電源だって理屈で考えればそんなに音に影響するわけはありません。
しかし現実に、KSLの倍の価格の製品はとんでもない音を出していました。すでにメーカーと設計者に対して全幅の信頼をしていた私は、何が悪いのかわからず、マニュアルを読み始めました。日本語のマニュアルがめちゃくちゃであるために、英文のマニュアルを見ていきました。すると、鳴らし込みや設置の仕方について明確に指示が示されていたのです。

その指示にあわせて配置を変更したところ、いやな音がすっと収まりました。実は、台とは、音の振動を伝えるだけではなく、他の原因もあり、音は設置する場所だけで変わるものだったのです。当時は、バランス接続はしていませんでしたが・・・。マニュアルの説明に合わせて変更しただけの結果に私は驚いてしまいました。機械はつなげればいいと思っていたのです

その際にあることに気づきました。アメリカの電源はアース付なのですが日本の電源はアース付は家庭では稀です。また、電源にアースがある製品は、ケースなどはアースに直接に配線されています。ですから、アース端子を正しく取り扱わないと、製品の性能は発揮されません。

また、本当には電源には極性があるのですが、アース端子が無いと極性を逆にして接続することも出来てしまいます。

電源極性の話題は昔から知られていましたが、アースの話題は聞いたことがありませんでした。設置場所で音が変わった理由はアースだろうと目星をつけ、アースを配線してみたところ、劇的に音が向上しました。驚いてしまいました。私がひどい音を聞いた場所は、テレビの台の下でした。そしてアースが接続されていなかったために、多くのノイズが製品に乗ってしまい、音を全くだめにしてしまったのです。この当時、アースの重要さは全く語られていませんでした。

これが私の「鳴らし込み」の始まりでした・・・


第02章 ハイエンドへの目覚め オーディオの遍歴 INDEX !第04章 鳴らし込みとオーディオケーブル

 


脚注11

実際のところ、日本のオーディオメーカーで設計をする人たちで、オーディオの趣味があるために入社している人はほとんどいません。また、音楽を愛する人も稀です。笑えない笑い話ですが、若い設計者を引き連れてコンサートホールを教育の為に引率するという話しが、どのメーカーにもたくさんあります。このような人たちが、海外のハイエンドメーカーの心から音楽やオーディオを愛し楽しんでいる技術者たちと対等であることが出来ないのは、道理に適っています。オーディオは感性が技術に優先するのですが、製品とする以上は、その感性はだれでもいいというものではありません。そして感性の提供者には、卓越、という言葉が要求されます。見回してみると、オーディオの世界では感性に心配がある人が作る得体の知れない製品も多く、百鬼夜行でもあります。


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