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シアタールーム 013 古ぅるい、東宝特撮映画

スターウォーズがアメリカで登場する前まで、日本の特撮映画は、世界でも有名でした。まあ、日本ではゲテモノ扱いされていた特撮映画ですが、今では特撮は当たり前・・・日本の映画は、芸術を追う気持ちからか、特撮を軽んじて、結局は時代についていくことが出来なくなったのでした。
そんな時代になる前のとき、今見ても、Sense of Wonderな映画が多く作られました。日本の特撮映画は、円谷英二に拠る所が多く、東宝が多くの作品を残しています。
この時代の特撮映画の中心は、そんな背景から東宝であったのでした。日本最大の映画会社は、だんだんと特撮をお子様映画に集中・・・そうした中で、大人も楽しめるスターウォーズが登場・・・東宝と東映は、それを迎え撃つ・・・といって作った作品「惑星大戦争」と「宇宙からのメッセージ」で、最低の評価を得て、輝かしかった特撮の歴史を、暗黒時代にしてしまいます。でも、ここでご紹介するのは、その前の時代の作品です。

 DVDになっていない作品も多く・・・映像製品になっていないものまで・・・

■ 映画は、芸術作品だったのか・・・

今でこそ、総合芸術として認知されている映画ですが、昔はそうでもなかったんです。
映画は、今での、テレビ番組みたいなもので、ぱぱっと作って儲けるもの・・・なんていう意識でいた時代が長く、そのためフィルムそのものが、ちゃんと保存されているか怪しい作品もあります。
そんな感覚で映画が扱われているのに加えて、特撮映画は、率直なところ、大切にされていませんでした。予算も、小額であったようです。
まあ、昔の東宝は、黒澤明なんかも活躍していたのですから、馬鹿な経営者であれば、特撮映画なんかではなく、第二、第三の黒澤明が欲しくなっても、不思議でもありません。でも、まともな人なら、黒澤明が何人もいないことぐらい、わかってよさそうなものです・・・私もファンの黒澤明ですが、真似事の文芸的映画には、今でも辟易させられます。
まあ、今は昔・・・昔の映画でよく話題になるのは、大家/大作と、特撮映画だけですね。あと、日活のアクション映画とか・・・日活の映画は、毎月のように作っていた、量産映画でしたが、当時には斬新でした・・・私は、好きでないのですけど・・・(^^;
特撮映画は、苦労して1年かけて作って、1ヶ月で作ったような石原裕次郎映画よりも観客が入らず、鬼っこだったのでした・・・(^^;

 地球防衛軍

東宝の特撮映画が、怪獣や戦争ではない、空想科学映画の系譜を生んだ、記念すべき映画が、この「地球防衛軍」です。
制作は1955年・・・人類初の人工衛星スプートニク1号に先立つこと、2年・・・私たちは、宇宙時代には至っていない時代の作品です。
生殖能力が衰えたために地球侵略に踏み切る、謎の遊星ミステリアン・・・その設定って、謎の円盤UFOみたいじゃん・・・でも、こちらの方が15年も先輩です。
そして、次々と続く美女の誘拐事件(この映画の時代の映画は美男/美女ブームです。今の俳優は、この時代に生まれてなくてよかったね)、やがて、本性を現すミステリアン・・・クライマックスでは、富士山麓地下に築かれたミステリアンのドーム基地と、地球防衛軍の超兵器の戦闘シーンがあります。
この映画に登場するマーカライト・ハープという直径200mのパラボラアンテナのようなもので光線を発射する、東宝独特の超兵器の系譜は、ずっと続いていきます(それは、ゴジラ対メカゴジラのtype 90 Meser Cannonへと続く系譜です)。同じように続く系譜は、α号のような大型の空飛ぶ兵器ですかねー。この名称は、緯度ゼロ大作戦でも登場しますし・・・。

■地球防衛軍■
Laser Disk TLL2217 / DVD TDV2604D
カラー88分/モノラル
1955年の作品です
そういえば、横浜のラーメン博物館にも地球防衛軍のポスターがありました
モゲラ・・・ミステリアンの地中を進む工事ロボット
登場しては壊されちゃうかわいそうな、
しかし印象的なロボット
α号コックピット
全長200mの空中戦艦みたなものです
α号初期デザイン
α号最終デザイン
この時代の特撮映画の、変わった特徴のひとつですが、設定資料などを見ると、
今から見ても見劣りしないデザインのものが多いのですが、
それを実現できなかったためか、実際に作られているものは、凄くチープなものになっています。
もしも、初期デザインのまま出来るような努力が続けられていたとしたら、
今もアメリカ映画に伍する特撮映画をつくり続けていたかもしれませんね。
 宇宙大戦争

地球防衛軍に気をよくして、作ったのがこの映画・・・というと、身も蓋も無いかな・・・ 舞台は1965年、宇宙ステーションが宇宙からの謎の侵略者ナタールにより破壊されるシーンから始まります。人類は、和平の道を模索しつつも、対抗手段を開発、人類とナタールの戦闘が、月の裏側と、地球で繰り広げられます。侵略者ナタールは、その姿も、侵略の目的も、明らかにすることはありません。地球防衛軍で登場するミステリアンのデザインに、反省があったのかもしれませんね。
私は、あまり好きな作品でもないのですが、やはり、記念すべき作品ですから、ご紹介しようと思いました。当時には珍しい、hitacのコンピューターが、タイプライタで字を打つシーンは、印象深いですね。小さいときに見て、凄いと思いました。しかし、自分がコンピュータの仕事をするようになるとは思いませんでしたけど。

■宇宙大戦争■
Laser Disk TLL2045 / DVDは未発売
カラー91分/モノラル
1957年の作品です
 妖星ゴラス

地球防衛軍の後、怪獣映画ではないものでは、「電送人間」とか「ガス人間第一号」、「世界大戦争」とかを作った東宝ですが、再び壮大な設定の映画を作りました。それが、1962年の「妖星ゴラス」です。
宇宙ロケットjx-1隼号が遭遇した、地球の質量の6000倍の星、ゴラス・・・その軌道は地球に激突するコースであった・・・地球の核兵器すべてを打ち込んでも破壊は出来ない・・・人類の決断は・・・南極に推進ロケットを作り、地球の軌道を変更する・・・。
凄いでしょ、もう、空想科学というよりも、奇想天外です。
この前年の作品であった、世界大戦争では、世界大戦を避けることが出来なかった人類が、熱核戦争により壊滅して終わるのですが、この作品では、人類は頑張ります。
余談ですが、この映画に登場している垂直離着陸機が、ウルトラマンで科学特捜隊の使用する、ヴィートルです。
この時代の東宝は、いろいろと研究もしていて、一部映画館では磁気録音によるステレオ音響でした(当時の映画は光学音響で、かなり音質が悪かったです)。そして、このLDは、その磁気録音マスターにより作られています。

■妖星ゴラス■
Laser Disk TLL2218 / DVD TDV2769D
カラー88分/ステレオ
1962年の作品です
 海底軍艦

「マンダじゃ、マンダの生贄にするのじゃ」

というセリフを、すぐに思い出す作品がこの、海底軍艦です。
このセリフは、ムウ帝国皇帝(下の写真で右上のもの中心にいる女性)のものなのですが・・・。
東宝の特撮映画の中でも、一番ファンが多いのではないでしょうか。
原作は、明治33年に発表された押川春浪作「海底軍艦」です。もっとも、設定を流用しているくらいで、全く違うストーリーですが・・・。
人類は、地底に脈々と続いていたムウ帝国の脅威にさらされます。世界はムウ帝国の植民地であったのでした。そして、ムウ帝国に従い、奴隷とならなければならないと、再び地表に戻ろうとするムウ帝国から迫られたのでした。しかし、人類の兵器では対抗できません・・・唯一、ムウ帝国がマークしている「海底軍艦」を除いて・・・。
海底軍艦「轟天号(ごうてんごう)」こそ、太平洋戦争末期に反乱を起こし日本海軍を去った神宮寺率いる日本軍の残党「轟天建武隊(ごうてんけんぶたい)」が、南洋の島で建造を続けている、超兵器だったのでした・・・。
深海に潜り、地中を進み、空を飛ぶ・・・それが海底軍艦です。
まあ、うがった見方をすると、東宝がお得意だった戦争映画と空想科学映画が統合されたものですが、だからこそ、手馴れていて、面白いのでしょうね。

■海底軍艦■
Laser Disk TLL2033 / DVD TDV2741D
カラー95分/ステレオ
1963年の作品です
 怪獣大戦争

怪獣映画と空想科学映画を作り続けていた当時の東宝の映画を説明していて、怪獣映画が全然無いのも不思議な気がします。
で、ご紹介するのが、怪獣大戦争です。
理由は、ふたつ。ひとつは、私が人生で初めて映画館で見た映画であったということ・・・もうひとつが、怪獣映画でありながら、実は、怪獣が単なる道具になっており、ストーリーはまるっきり、SFそのものであるということです。怪獣は、この作品では道具そのもので、ゴジラはシェーまでしています。ゴジラのシェーはこの作品だけだと思います。

■シェーとは赤塚不二夫のおそ松くんに出てくる、出っ歯のイヤミが驚いたときにやるポーズです

つまり、怪獣映画であっても、空想科学映画そのものの要素を、強く持ち込んでいたのでした。
このような作品を見て育った世代が、今の日本のアニメやSF映画の担い手になっていったわけですね。
この作品は、意外とよくそのモチーフがいろいろな作品に登場しています。
例えば、アニメ映画である「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」の友引高校のシーンで、この作品に出てくるX星人のコスチュームを着た男の子たちや女の子たちが繰り返し描かれています。


■怪獣大戦争■
Laser Disk TLL2233 / DVD TDV2716D
カラー94分/ステレオ
1965年の作品です

 緯度ゼロ大作戦

円谷英二最後の、怪獣ものではない空想科学特撮映画・・・それが緯度ゼロ大作戦でした。
この映画は、私にも思い出深いものです。なにしろ、子供の頃、小学生だけで見に行った第一号の映画でした。当時、映画をどこでやっているかなど、よく理解しておらず、映画館が当時いくつもあった武蔵小山に行きました。で、上映してないことを教えてもらい、上映している目黒の映画館に行きました。初めて見たときにとても面白く、そのためにもう一回見ようと夜遅くまで見ていたのですが、帰宅時間はグーンと遅くなりました。家のほうでは、帰宅しないと武蔵小山の映画館に問い合わせて、いないことがわかり、子供が行方不明と警察に届けを出していたのでした・・・そんなに怒られなかったのですが、一緒に行った友人の家からは、しばらく出入り禁止にされました・・・(^^;
この作品は、かなりアダルトなところを狙った作品です。
特撮も、怪物などの造型はちゃちですが、そうでないところは、なかなかよく出来ていました。
ストーリーも、それまでの東宝のパターンとは全く異なります。なにしろ、主人公には、武器らしい武器がありません・・・敵には超兵器である黒鮫号やキメラ(合成生物)があるのにです。それでも、放射能免疫を発見した科学者を救うために、敵の基地に乗り込んで行きます。世界は、放射能免疫の知識を求めて、世界大戦へと一触即発の状態になっていたのでした。
主人公たちは、緯度ゼロと呼ばれる海底のユートピアに所属します。彼らは、人類でありながら、人類ではない、科学技術を大きく進歩させた人々です。なにしろ、主人公たちの乗るα号の建造は1800年代・・・。緯度ゼロの人々は、影で、世界人類の発展のために、活躍しているのでした・・・そして、その敵もまた、緯度ゼロから袂を別った悪の天才科学者・・・。
この作品は、資料の管理も悪く、作られた本編であるアメリカ版がどのようなものであったのか、わかっていません。
日本特撮の父といわれた円谷英二は、1971年1月・・・狭心症のため亡くなりました。

■緯度ゼロ大作戦■
カラー / 89分
(アメリカ版は106分)
1969年の作品です
長い間正規作品がありませんでしたが、TOHOが入り組んだ権利関係を整理して、完全版ともいうべきものを発売してくれました。
この作品は、オーストラリアのドン・シャーププロとの提携で作られ、その際に、映像作品の発売権が東宝にないように契約されたためです。もともと、ドン・シャープから申し込まれ、制作費折半の予定だったのが、制作費をドンシャープが手配できず、東宝の単独制作となったのでした。ドンシャープは権利だけ持っていっちゃっのね・・・(^^;
東宝は東宝で、特撮シーンを大体にカットした「海底大戦争」というバージョンをつくり、日本ではそちらの方が多く上映されているようです。

ところで、私が好きな映画音楽で、一番は、この緯度ゼロ大作戦かもしれません。子供の頃に聴いたことが無かった、叙情的でシンプルな旋律・・・伊福部昭の音楽は、地球防衛軍のマーチが有名ですが、このような現代音楽がかった音楽とか、逆にバロック風の音楽が、また凄いんですよね。子供の頃、ユートピア緯度ゼロでのBGMで使用されたチェンバロの音色と旋律が、耳に焼き付いてしまいした。
余談ついでですが、サンダカン八番娼館 望郷(1974年/東宝/ベルリン映画祭銀熊賞受賞)の音楽がとても緯度ゼロ大作戦に似ています。もちろん、オリジナルは緯度ゼロ大作戦です。芸術作品と特撮作品に区別をつけない、伊福部昭の面目躍如ですね。
余談ついでですが、東宝では緯度ゼロ大作戦の譜面を紛失しており、再演する場合は書き起こす必要があります・・・(^^;・・・映画会社って、昔は、フィルムの管理を含めて、いい加減だったんです・・・(^^;

 エスパイ

円谷英二亡き後のSF映画です。
この前年に、小松左京の「日本沈没」を映画化して、大成功を収めた東宝では、続いて、小松左京原作のエスパイを映画化しました。小松左京は、「エスパイの映画化はかなり早い段階からあって、出版してすぐ交渉がありました」と述べています。東宝は、怪獣映画を子供向けに作りながら、大人向けの特撮映画も忘れていたわけではなかったのでした。
この作品、小松左京もインタビューでこのように述べています。LDのリーフレットからの引用です。

「いずれにしても「日本沈没」の小説・映画・テレビで大変忙しい時期に実現した「エスパイ」だったので、完成したときはうれしかったですね。イスタンブールの阿片窟のシーンで椅子に縛られた田村(藤岡弘)がマリアを助けようと念動力でアブゥドーラの舌を撃つつころ。原作ではペニスだけれど、ちゃんとあのシーンを生かしてくれていたでしょう。そういうところが「エスパイ」は好きですね。ラストは原作にある宇宙空間のシーンはなくなってウルロフの屋敷になっていますけど、許容範囲内でちゃんと撮ってくれている。映画「エスパイ」は本当にいいですよ。たまに、ちょこちょこと観なおしたりして楽しんでいます。」

私も、歯の浮くようなセリフを含めて、結構好きです。
ところで、この作品のヒロインをやっている由美かおる、当時と今で、スリーサイズが変わらないそうですが、それ以前に見た目も変わらない・・・もう、30年前の作品なのですけど・・・60代になっても容姿が衰えない、恐るべき美女ですね(^^)
余談ですが、この映画と同時公開だったのは、山口百恵主演映画第一号の伊豆の踊り子でした。そのとき共演した三浦友和が、今のだんなさんですね・・・。

■エスパイ■
Laser Disk TLL2518 / DVDは未発売
カラー94分/モノラル
1974年の作品です
 閑休小話 スターヴァージン

東宝にはなんの関係も無いのですが、小松左京の話題が出たので、すこしだけ・・・
小松左京は日本のSFに大きな影響を与えた人物ですが、いたって、遊び心のわかる人だったのかもしれません。何気ない、アマチュアのような作品に、ポンと特別出演したりしていたからです。
1988年に作られた、スターヴァージンでは、主人公の宇宙少女エイコの父親役で登場しています・・・

 Laser Disk ポニーキャニオンG98F0256
57分 / ステレオ
 スターウォーズに対抗して・・・(^^?・・・惑星大戦争を作っちゃった

エスパイから4年後・・・1977年・・・スターウォーズがアメリカで公開された年に、東宝と東映は対抗して・・・(^^?・・・それぞれSF映画を公開しました。「惑星大戦争」と「宇宙からのメッセージ」です。日本での公開は、こちらが先になってしまいました・・・(^^;

DVD 東宝TVD3248D
91分 + 特典映像/ 2004Rimix 5.1ch

そして、東宝は1984年の「さようならジュピター」まで、実に7年にもわたって、SF映画は作りませんでした・・・スターウォーズから学ぶものは、なにも無かったと述べて作った「惑星大戦争」が、その原因だったのでしょうか・・・(^^;・・・本当に見たのかな・・・シュノーケルカメラを使った迫力ある特撮・・・の映像がありますけど・・・うーん、売り文句と見た人の感想には差があるような・・・。

宇宙からのメッセージ ガバナス帝国人

私の記憶は、浅野夕子のお御足だけ・・・で、なぜか東映/宇宙からのメッセージのガバナス帝国の衣装と、惑星大戦争の巨大なローマ船の親父は、似たような衣装・・・不思議な符号の意味を、私は知りません。
まあ、東宝の特撮として出来が悪いわけではないと思うのですけど、あくまで子供向きのSFです…子供向きのSFという惰性が、墓穴を掘ったのかもしれません。東宝は、シリアスなSFを作る能力を、怪獣映画の伝統の中で、失ったのでしょう。子供もそっぽを向いたのでした。
日本では、その後大規模なSF映画は、ほとんど作られなくなり、スターヴァージンのような系列の映画というか、ビデオ作品が多く作られるようになっていったのでした。
この背景には、日本映画界と違い、ハリウッドは技術開発に力を入れて、その結果、模型技術ではとても対抗できない水準に映画を持っていったことがあります。つまり、技術の差が、そのまま、映画の違いになるようになっていったのでした。
今では、香港映画のほうが、日本映画よりも勢いがあるかもしれませんね・・・(^^;

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